色恋沙汰






 葬儀社・リトルエンジェルズの元倉庫の事務所はいわゆる閑古鳥が寂しく鳴いていた。
否、別に商売が捗っていない訳ではなく この淋しすぎる室内がそんな感じを起こす事からだが。
そこに一羽のウグイスがやってきて一声鳴いた。
 その時の朗といえば、スキップとソーラン節をいっぺんにできそうなくらい心が弾んだ。
環が、本業を終えてアルバイトにやってきたのだ。
 今の状況を説明すると、さっきまでの閑古鳥な事務所…‥つまり朗以外は全員出払っていた事務所内に、環もひとりでやってきた。
これからわかることは、彼らの他に人間も動物もいないという事。
もっと分かりやすく言うなら、ふたりきり、というバラ色なシチュエーションな訳だ。


「あれ、皆出てるんですか」
「あ、うん。社長は未樹さんに呼び出されてて」
「またですか?」
「今日は今話題の化粧品のサンプルを興味本位で使ったとからしいけど。で、将先輩と──」
「本当に仲いいですよね、大友さんと桃子さん」


 環の言葉に思わず眉根が寄る。
あの二人の仲が良い?
一体環はどこを見てきてそれと判断したのやら。
所内でも大友は思い切り桃子をいじり倒しているし、桃子だって無論天然だが あろう事かモップを大友の顔にベフ、とやっていたりする。
ああでも、それでも一緒に仕事やらなんやらで出てたりするのだから確かに仲はいいのかもしれない。
 朗は何となく、そして半ば無理矢理に納得してまた環に目線を戻すと環はどこかに視線を彷徨わせていた。
ああやっぱり可愛いなぁ、なんて思ったとき。


「大友さんの本命って、本当に桃子さんだったりして」
「………………‥‥へ?」


 朗は我が耳を疑った。
今、環は何と言ったのだろう。
俺の敬愛する将先輩が、あのアホを、
整理してからイヤイヤイヤと手と首を振った。


「ないないない、それはないっしょ〜、」
「どうしてです?ないとは限らないですよ。むしろあるって考える方が自然かと思いますけど」


 デスクに付くなり書類を眺めながらいつものようにクールに返答した。
眉を寄せてハテナを飛びかわせる朗と対象に環は自分で言い出したことだから反応薄く続ける。


「だって大友さんがいじめ倒すの、桃子さんだけじゃないですか」
「そうだけどそれはアイツがあんなんだから、」
「本当に一緒にいるのが嫌だったら、私ならどんな餌を与えられたって突っぱねますよ。違います?」
「……‥だからそれは、社長の言葉添えで…」
「お世話が嫌なら朗さんや同姓の未樹さんに任せちゃえばいい話ですもん」


 でしょ?と軽く首を傾げて書類から顔を上げ じっと朗を見てくる。
朗はそれに反論する術が浮かばなくなり、言葉を詰まらせ逆に目を泳がせた。
確かに、言われてみれば環の見解は筋が通っていた。
 しかし認めたくないと言うのもある。
 桃子が本命かもしれないという仮説は100歩譲ってみるとして、問題はその次だ。
だってそれを認めると同時に、将先輩は「好きな女の子を振り向かせたいから虐めてしまう小学生レベルの男」に成り下がるじゃないか!
流石にそれは許せない。


「そんな小学生のガキみたいな真似を将先輩がするわけないって〜環ちゃん考えすぎだって」
「小学生って…。っていうか、桃子さんがあんな感じの人だからって言っても 誰かに桃子さんと同じ風に接する大友さん見たことないし。でも逆にああいう事できるのっで素゙なんだと思うんですよね。……まぁ、勝手な憶測に過ぎませんけど」


 環がそう纏めると同時にバタン、という音で扉に目を向けると噂の人々が帰ってきた。


「うぅ〜、さぶい〜…ただいまでーす!あっ、環ちゃんおはよう!」
「お前はもう少し静かに入れねぇのか。四六時中キャンキャンキャンキャン騒ぎやがって」
「キャンキャンって、人を犬みたいに!」
「犬よりうぜぇよお前は」
「あ、将先輩、お帰りっすー」
「おはようございます。大友さん、桃子さん」


 さっきまでだって散々やっていただろうに、いつものように帰ってくるなり漫才を始めた大友と桃子。
 そこで朗はさっきの話題を思い出した。
本音は、勿論 確かめたい。
でも本人を問い詰めたところで「ありえない!」と絶叫するに決まっている、というのはわかっていた。
 だから 環と目線を合わせて軽く苦笑するに留めておいた。
大友が桃子の額を片手で掴み抑えることで一応言い合いが終結していた二人が、目を瞠ってそんな朗と環を交互に見た。
それから大友が何を思ったかにやりと口元を引き上げた。
桃子の額を押し出して遠ざけると朗の肩を抱いて女子2人に背を向けた。


「…ははーん朗、お前ついに。やらしーなァ、普段はそんな隣り合いでいない癖に 二人きりの時は急接近てか?」
「へ?」
「まぁ照れんなって。今日は祝賀会だな、おっし早く仕事終らせて呑み行くぞー!」
「まぁじですか大友さぁん!今肩を寄せ合ってたって事は…今日は朗さんの奢りとか?!!」
「おう、そうらしいぞ。俺たちに幸せを分けてくれるらしい」
「え、どういう展開…?」
「・……………そうか、二人きり、…」


 折角の二人きりの時間に他人の恋の行方で自分のチャンスをみすみす逃していたなんて、
放心した朗は、いつもの元気も何もなくなって 勝手に自分払いで進められて行く宴会の話題にすら耳を傾けられなかった。







色恋沙汰の昼下がり



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あきらさんとたまきちゃんのキャラとか全く掴めてません。すきやのに。二人の関係も掴めてません。すきやのに。自分設定どんだけ。
取り合えず自分の(歪んだ)考えをたまきちゃんに託したって話。



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あきゅろす。
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