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指さえも(相互祝/ひうら愁様)



※相互祝いSSとなります。

※清官でぶちゅうな内容ですので苦手な方はご遠慮ください。

※勝手に清正と官兵衛は恋仲設定となっております。





〜〜〜



「敵方の数が分りませぬ故、手始めに鉛を放つしかありませんな」


 夕刻に開かれた軍議。
 秀吉の陣へと集まった各々の武将の前で、官兵衛は絵師に描かせた机上の地図を指さした。白い指は、羽柴軍が陣を引く森から滑らかに移動し、山の麓でぴたりと止まる。それだけの所作であるのにも関わらず、艶のある指の動きに視線という視線が留まるのである。まさか軍議で、よりにもよって怖面の黒田官兵衛に女のそれを匂うなど愚かしいにも程があるのだが、普段身につけている手甲を外せば細い指が隠れているなど誰も予想だにしていなかったその意外性が、むさくるしい男の心を変に乗じさせていた。
 その官兵衛の指先が、とんとんと地図を叩く。


「先鋒の鉄砲隊が弾を打ちこむ。さすればこちらの威嚇に対し、返ってくるであろう敵の銃撃から、大凡の人数はわかりましょう。そこで」

「俺は反対だな」

 官兵衛の指を童のような小さな手が払い退ける。己の軍略を披露する格好の機会を弾かれ、苦い思いをしながら見ると、童顔の同僚が低い視線から見上げていた。その顔を一瞥して一言放つ。

「霧が深い」

「だからどうだって?」

「むやみに全軍を動かす必要はない」

「それは一理あるよ」


――それでは何が不服なのか。

 押し黙っていると、半兵衛は軍議に集まった一同の顔を見渡してから「けれども」と切り出した。


「けれども、人数を割くのは得策じゃないと思うんだ。犬死になりかねない」

「犠牲は勝利への過程だ。草が戻らない以上、得策だと思うが」

「だからと言って敵の出方を図るためにわざわざ死地へ部隊を派遣しなくても…!」

「まぁ、待て」


 熱を帯びた軍議。
 互いの主張をぶつけ合う二人の参謀の鞘を収めたのは、主である秀吉である。

「夕暮れ刻じゃ。明日になれば天候がどうなるかも分からんし、本日の軍議はお開きじゃな」

――それはまずい。

 官兵衛は瞬時に「しかし」と喉を震わる。が、その言葉を遮るかのように、秀吉はバッと扇子を開いた。

「続きは早朝!各々休むがよいわ!」

 
 それが合図となった。静寂に包まれていた場がどっと賑やかになる。その様子に、何が楽しいのか半兵衛が頬を綻ばせてた。

「明日だってさ、官兵衛殿」

「卿が黙っておれば早朝一番に先鋒隊を派遣できたというのに」

――それは残念だねぇ。
 声に出さずとも口の動きを読めば分かる。半兵衛は音の無い声でそう言うとにっと笑った。

「それにしても官兵衛殿、変に色っぽかったよ?あれは自覚した方がいいねぇ」

「何の事だか理解しかねる」

「理解しなくても周りがそう感じて…」

 言葉の途中、唐突に半兵衛は唇を閉ざした。閉じた唇とは反対に彼のその大きな黒い瞳が横へと移動する。さりげなく視線を追えばよく見知った面がそこにあった。

「清正…」

 視線の先に佇むのはむっとした表情の加藤清正だ。ぎゅっと拳を握る姿は非常に嫌な予感がする。眉を寄せギラリと睨む二つの眼は矢のように鋭い。清正の全身から漲るただならぬ殺気に、二人の軍師は互いに顔を見合わせた。

――是は巻き込まれたくはない。

「か ん べ ぇ え え え!!」

 やれ、困った。
 官兵衛は溜息をついた。ご指名はどうやら半兵衛ではなかったらしい。同僚を見ると安心しきった様子で、まるで他人事のように興味津津といった眼の色をしている。

――まったくもって面倒だ。

「そう大きな声を出さずとも卿の猛獣のような雄たけびは耳に入る」

「そういう問題じゃねぇよバカ!」

「ならばどういった問題だ?」

「そ、それは…」

 問い詰めれば口ごもる。図体だけがやけに大柄だが、中身は備わっていないらしい。
 官兵衛は冷ややかな眼で清正を捕えた。

「問題がなければもう良いか?私は明日の軍議に向けて準備を…ん、何だ?」

「ちょ、っと来い…!」

 清正は疾風の如き素早さで官兵衛の痩せた手首を掴む。一瞬、半兵衛を眼に留めた清正であったが、それも一緒だけ。官兵衛の腕を引いたまま歩きだした。
 
「離せ…!」

 引かれるままの官兵衛でも無い。踏みとどまろうと足に力を入れるのだが、悲しきかな、力の差が歴然としている。物のように引かれるままなど許しがたい事態であるが、それも現実なのだから潔く諦めるしかない。で、あるならば。

「何が不服だ、訳を話せ」

 勇む背に投げた言葉。
 突然、官兵衛の視界がぐらりと傾く。それと同時に背に走る痛み。投げつけられた、といった表現が適切なのかもしれない。文字通り、清正は木の幹へと官兵衛を投げつけたのだから。
 ごほっと唾を吐き捨て、官兵衛は清正を睨みつける。行動で示せとは一言も言った覚えはない。しいていうなれば。

「口で物を云え」

「てめぇが悪いんだ」

「何が悪いのだ?」

「だからその、官兵衛が悪いんだ!」

「何が悪いのかと」

――聞いている。

 言葉は音にならないまま、官兵衛の喉の奥でなった。清正の唇が官兵衛のそれへ吸いついたからだ。なんとも色気に欠けるそれは、齧りつくように上唇に歯を立て、僅かに開いた隙間へと舌を流し混む。逃れようと顔を逸らせば、より一層吸いついてくる唇に、一体、加藤清正という男は、どこでこの下手な(それも非常に、だ)接吻を学んだのだろうかと些か疑問に思えてしまう。
 
――吸えば良いといったものでもなかろうが。

 官兵衛は清正の肩を掴み、渾身の力をもってその図体を引き剥がした。

「止めよ」

 静かに響く低音。
 一定の調子を踏む官兵衛の声が僅かに上擦ったのは、長くて下手な接吻のせいであったのかもしれない。清正は耳の先まで朱色に染め、「てめぇが色を出すから悪い」と言う。

「俺以外の、ひひ人の前で…そんなことをするな」

 駄々をこねる童のように視線を漂わせる清正。官兵衛は、その様子を見て、「ああ」と思った。

――ああ、そういうことか。

 思い出すのは先の同僚との会話。
 清正から己の指へと視線を移動させ、半兵衛の言葉と指を一致させる。

――半兵衛曰く【色っぽかった】と言いたいのだろうか。


「卿は愚かだ」

 空を仰ぎ見る。
 夕暮れの紅い空を見上げて「愚かだ」と独り言のように官兵衛は呟いた。

「な、なんでだよ」

「私は変らぬ」

 ちらりと横目で清正を見る。
 絡まる視線。
 耐えかねて先に糸を切ったのは清正だった。

「どうなるか、わ、分からないだろ?秀吉様だとか半兵衛だとか…その…沢山いるし」

「信用できぬのならばそれでよい」

「いや、信用できねぇとかそんな問題じゃ…」

――困った男だ。

 官兵衛は、大きく溜息をついた。
 二月程前よりどういった経緯かは理解しがたいのだか、黒田官兵衛は加藤清正と恋仲になっている。恋仲となってから思ったことは、意外とこの男は執着心が強く嫉妬深かったことと、体格の割にはその手の経験がてんで無かったといったとうところだ。

――やれ、どうしたものか。

 官兵衛は大柄な童に対し、どのように言葉を掛ければ一番良いのか思考を巡らす。

――…いや、もとより。

「下手」

「はひ?」

「接吻が下手だ」

腫れるまではいかないが、先ほどの感覚が残る唇を官兵衛は拭ってみせた。面食らう清正に対し、もう一度「下手だ」と冷たく言い放つ。そうだ、ついでに言っておかねばならぬことがある。

「情交も下手だ。先にイクな。鼾が煩い。暑苦しい。汗っぽい」

「はぁ!?官兵衛、その言いようはないだろうが!?」

「猶予をやる、直せ」 

 物を言おうとした清正の唇へ、官兵衛は己の指を押しあてる。何が起こったのか理解ができずにいる清正のその唇を、色白の指がなぞるのだ。ゆっくりと輪郭を添う動きが艶めかしい。誘うような指の動き。思わず清正はごくりと唾を呑んだ。色気がある。一つ一つの所作に、抗いがたい色気が。
 愛おしげに唇を撫でていた指が、ふわりと宙を浮く。清正がその指を追えば、怖面と視線が合った。

「卿のような輩を我慢してやれるのは私ぐらいのものだ」

「ちぇ」

 舌打ち一つ。
 眉を寄せ、いかにも苦々しい表情をつくる清正だが、表情とは裏腹に内心、くすぐったい心地がする。「けっ」とあからさまに唾を吐き、清正は官兵衛へと向き直った。


「まぁ、そこまでそういうならば、我慢させてやってもいい」

「…」

 どうやら直す気はないらしい。
 

 
 翌日開かれた早朝の軍議へ、黒田・加藤両人が遅れて顔を出したとはいうまでもない。





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祝いSSとなります!×官とのことで、清官でぶちゅうなお話にしたつもりです>< すみません!勝手に恋人設定にしてしまいました…!あう!それと久しぶりにSSを書いたので感覚がつかめず…その…長いです>< すみません。フォント数・ページのぶちぎり・改行などご自由にどうぞ!返品可です!書きなおします!はう!お待たせして申し訳ございません><

こんな私ですが今後ともどうぞ宜しくお願いします!誤字が無いことを祈りつつ…


おさわりだとかぶちゅうだとか…良く考えれば指ばっかだったなぁ…途中、秀官フラグが立ったことは秘密です(笑)

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あきゅろす。
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