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稲葉山諸話@




※捏造色が濃いです。

※半兵衛第一ストーリーよりもうんと昔のお話。

※若干、史実より。あと家紋は捏造しました。許せる方のみどうぞ。

※一冊も売れなかった同人誌より抜粋。修業します。



〜〜〜




蝮とは親の腹を食い破り、この世に生まれ出る生き物であると言われている。となると、親殺しをして生を受けた蝮の子も、親を殺して世に出るのが運命というものであろう。一介の油売りから、それこそ主君を食い破って天下に名を知らしめた美濃の蝮、斎藤道三も、その腕に抱き、可愛がって育てた斎藤義龍によって腹の内から食い破られたのは、濃姫が輿入れをしてから八年後のことであった。弔い合戦と称して、織田信長が兵を率いるも、稲葉山は落ちる気配を見せず、織田軍としては何度も大敗を食わされる羽目となる。

「義龍も蝮であった、か」
 
それが、斎藤義龍へ下した信長の評価であった。
蝮の動向に振り回されたのは、なにも隣国の織田家だけではない。

斎藤道三の片腕として采配を振るった岩手弾正忠信久とその同族にあたる竹中重元も、蝮の共食いに巻き込まれた悲運の人だといえる。両家共に仕えた道三は、戦に敗れ、首だけでなく鼻までそがれる無様な姿となった。 

重元は生き残った。信久は長良川の戦いで戦死している。

「このままでは滅びるぞ」
 
命からがら菩提山城まで逃げ帰った重元は、半兵衛を前に独り言のようにいう。小柄な半兵衛とは違い、いかにも戦国の武将だと分かる豪胆な体が、曲がっているように見える。時折、虚しく動くのは、彼が泣いているからだ。背には絶望、顔には悔しさが滲み出る。

――このままでは一族は滅ぶ。
 
ひたりと汗が頬を伝う。
父と共に血汗を流して切り開いた菩提山城を手放すのは惜しい。それ以上に、己を慕う一族・郎党の命を無残にも捨てることの方が厭だった。

短い沈黙。
半兵衛が黙って、重元を見上げた。
父の言葉を待っているのだろう。
重元は、目前に坐する愛らしい己の子の頭を撫でた。

――この子を手放したくない。
 
ふと、重元の脳裏に逃散という二文字が浮かぶ。菩提山を捨てて落ちるのだ。暫くは、耐えねばならないだろう。が、戦国の世だ。運が良ければ、いずこかの大名から声がかかるやもしれん。

「一族を率いてどこぞへ逃散するしかあるまい」

「その必要はありません」

「半兵衛、冗談を言っている場合ではないのだぞ」

「いいえ」と半兵衛は首を振る。

「蝮の子は所詮、蝮。首が一つしか無い故、亀と僧に睨まれては何の手出しもできません」

そう言って愛らしく微笑む。

――半兵衛め、何かを企んでおるようだ。
 
瞳に喜色の色を見受けた重元は、顎に手をやった。

「俺に任せて下さいよ、父上。きっと上手くやれます」

「しかし」と言いかけて、重元はその言葉を呑む。泣きっ面だったあの半兵衛が「任せてくれ」というのである。姿形は以前に増して美しくなったが、内面は一人前の男として立派に成長している。戦に負けたぐらいで男泣きをする己が恥らしくなるくらいに、半兵衛は頼もしく育ってくれた。

――賭けても良いのではないか?

そう、己の息子に一族の運命を賭けてやっても良いのではないだろうか。それでしくじるようなことがあれば、そこまでだ。どの道、逃散するのである。何もしないよりも、何かに天命を託すのもよいのかもしれない。

重元は大きくカカっと笑った。そして、半兵衛の肩を強く叩いた。

「半兵衛、お前に任せる!」

「ありがとうございまする」
 
 
その日のうちに、一頭の馬が菩提山を飛び出した。馬上の主は、竹中半兵衛重治である。彼を乗せた馬は風のように駆け、岩手城の前で止まった。その頃には、既に陽が暮れてしまっていた。


(Next...)




あきゅろす。
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