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贈る言葉(官)




※捏造注意。

※使い回しすみません><


〜〜

都の風情ある情景が瞳に映える。庭を例に挙げてもそうだ。質素淡泊な門構えを潜ると出迎える洗礼された植林や水を引いて築いた人工的な池など、屋敷まで連なる全ての景色が塀の内で築かれた箱庭のようなのだ。箱庭の中では屋敷の主がデウスであり、自然さえも超越した存在として君臨する。そうして彼、つまりは箱庭のデウスは、訪れた客人を彼の思想の一つでもある幽玄をもってもてなすのだ。

茶の前では皆平等であるとこの屋敷に住まうデウスは云う。よって屋敷より離れた場所に造られたこの茶室は、片足が板葺きに触れた時点で身分を拭い去るそれこそ聖域そのものであるといえるだろう。



「如何でしょうか」


大丈夫が二人坐しているだけで窮屈に感じる茶室で、屋敷の主千利休が頬をほころばして言った。

「私では勿体無い茶湯ですな」

官兵衛は飲み干した陶器を床へ置き、一礼をする。その官兵衛に利休が「いや」と割った。

「いや、そのようなことはありますまい。貴方様を想って点てた茶湯で御座います」


「ならば心意気を有り難く受け取っておこう」


官兵衛が飲み干した陶器。それを自然な動作で引き寄せた利休は、ふふ、と笑った。笑いながらも優しい眼差しで氷の男を見る。


「何か?」


利休の眼差しに違和感を感じる。官兵衛は、さしで気にしていないように装いつつも、さり気なく利休を見た。正直なところ、官兵衛には利休の心底が読めずにいた。天下を望む者の腹の底は読めても、目前の茶人の腹は図れぬというのだ。刀さえも持てぬ一介の茶人ーー不思議な男だ――官兵衛はそう思った。


「悩みの種が芽吹いておりますな、孝高殿」


微笑みを蓄えた利休がそう言った。官兵衛は軽く頸を傾げてみせる。


「はて、何のことで?」


「正確には貴方様の種ではありませんね」


「と、申されると?」


「私よりも貴方様の方が良く知っておいでだというのに」


ほほ、と笑う。その笑みに腹の肝を鷲掴みにされた心地だ。官兵衛は「失敬」と断りを入れてから軽く咳き込んだ。


「泰平は直ぐそこだが、その先が見えぬ」


思わず吐露した己の言葉に官兵衛自身が驚いた。茶人に何を言うのだろう己の浅ましい唇は。


「おや、孝高殿の瞳は曇りましたかな?」

そのようなはずは無い、と利休は己の言葉に付け足す。


「貴方様以上に先を見える男はおりませぬ」


柔らかい声音。利休は微笑んだまま、茶を点てはじめる。その手つきをじっと眺め、「一人居るではないか」と官兵衛は思った。


「一人居る、いや、一人居た…少し前まで」


「…?」


利休の指がピタリと止まる。視線があった。ああ、しまったと己を悔いる。


「忘れてくれ」


辛うじて喉をついた言葉は枯れていた。枯れた声音で腹の底を見透かされたのでは無いかと焦る己がいる。

おかしい。
千利休という男の前では、いくら何重に着物を身に纏えど全ての布を剥ぎ取られた心地になる。

利休は陶器を手の内で三度回すと、固まったまま動かずにいる官兵衛へそれを差し出した。



「山頂から流れる川の子供達は」


「…?」


「人差し指一本程度の小さな体で御座います」


――何を言い出すのだろうか。


利休の突然の発言に官兵衛は不思議に思った。謎、のようである。頓知の類かも知れぬ。

ただ黙したまま利休を見据えていると、目前の茶人は人差し指と中指を付けて官兵衛にみせた。


「川は変化します。人の幼子のように成長するのです」


「川上から川下へ下るといつしか海へ連なるであろう」


「左様で」


流石は孝高様、と利休は微笑む。今度は五本の指の頭をそれぞれつけて官兵衛にみせた。なるほど、どうやら指は川の流れを表しているらしい。


「貴方様のおっしゃったとおり、川は下るにつれ次第に背を伸ばします。右往左往にくねりながらもいつしか大河へと成長するのです」

そこで間を置いてから、利休は「孝高様、」と言った。


「孝高様、直進する川など在りませぬ」


「…利休よ」


「はい」


「何が言いたいのだ?」


官兵衛の投げた問いは、川に投じた石のようにその場を跳ねた。が、波紋を生じさせるには些か重さが足りなかったらしい。利休は微笑んだまま、官兵衛を見据えている。


「当人にはそれはそれは苦しいかも知れませんね」


官兵衛は無言のまま茶人を見る。利休の言葉から意図する内容を読み取ろうと思ったからだ。利休も利休で官兵衛の思う節を気付いている。説き聞かせるように姿勢をただし、「で、ありますが」と言った。


「で、ありますが、後から振り返ってみれば、右往左往と流れた日々が美しく輝いてみえます。己が巨大であると思っている試練も、過ぎてしまえば笑いの種…」


「笑いの…?」

茶人はこくりと頷く。

「貴方は一人ではありませんよ、孝高殿。泰平の先はまた己が決めればよい。そう、言いたかったのではないでしょうか?」

誰がだ、と野暮は聞かない。
無言のまなざしを利休に送り、官兵衛は視線を茶器へと移した。茶柱が一本、丸い池にぽっかりと浮いている。


――やったじゃん、官兵衛殿。今日一日は幸運だよ。


「…ふん」


下らぬ、と言葉を吐き捨て、茶柱ごとぐいっと飲みほす。苦い、非常に苦い。視界が澄み渡るように苦い。
みると茶人はふふっと口元を覆って笑っていた。わざとだろう。わざと苦い茶を出したのだろう。では何のために?

「利休殿」

「はい」

「世話になった」

官兵衛はそう告げて頭を軽く提げた。苦い茶で目が覚めたようだ。己らしくもないことで悩んでいたとは、それこそあの寝てばかりいた不束者に笑われてしまう。








どうやら。

どうやら私はこの瞳で見てみたいのかも知れぬ。戦乱とやらの果てが本当にあるのかを。泰平のその先は…まぁ、今は考えないでおこう。たまには知らぬ顔でいるのも良い。




「なぁ、半兵衛よ」









〜〜〜
頑張る人へ贈る言葉。
捏造が酷いですね、すみません。
私も今年は頑張ります。

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あきゅろす。
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