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壮大な、青(相互祝/篠原柚木様)


「青がみたい」


唐突に竹中半兵衛がそう口に出したのは、初夏の昼下がりだった。縁側で花を見ながら和歌を詠んでいた三成や、武器を磨いていた清正は、《また竹中殿が黒田殿の尻でも叩いているのだろう》と思った。正則に至っては腹を出して眠っている。時折、銅鑼が鳴るような鼾をかくものだから、その度に三成が「五月蝿い」と舌打ちした。



「そうだ、海へ往こう。」


「海って…白浜ですか?」


「さっすが三成!即答じゃん!畿内からだとやっぱり白浜だよねぇ」


相変わらず筆を執る三成の背に向けて、半兵衛が喜色を孕んだ声色で言うのだ。その様子に異変を感じた清正が、ちらりと視線を手元の武器から半兵衛へと移す。


こともあろうに視線がぴたりと一致した。

嫌な予感だ。


「清正ぁ〜!やっとこっちを向いてくれた!」

「は?」


「白浜行きたいよねぇ?」


「いや、俺は別に」


「それじゃあ白浜へ行こうか!!」


「ちょ、まっ…!!」


抱きつく半兵衛に身じろぎをしながら、清正は三成へ視線を送る。


<おい、どうにかならないものか?>



暫時、清正と半兵衛とを見比べ、自分へ災いが降り注がんことを確認するや否、三成は冷たく一言、「お気を付けて」と言い放つ。孤立した将を目前で切り捨てるようなものだ。援軍が来ないことを確認した清正は、自刃を覚悟しなければならなくなった。しかし、敵将の勢いは清正の首だけでは物足りないらしい。


「あれ?三成も行くんだよね?」

「いえ、俺はここで和歌でも」

「ここじゃなくても和歌は詠めるよね?」

「確かにそうですが、ここで詠みたいのです。俺は」

「それじゃぁ白浜へ行こう!」


全く会話になっていないではないか。


面倒だ、と言わんばかりに三成は肩を落とした。ついでに筆の背で正則の頭を突く。どうせ否定しても往かねばならぬのだ。それならばこいつも道連れにしなければなるまい。


「…んあ?なんだ?」

「相変わらずの阿呆面だな」

「っだとこの野郎!?」

「待て、正則。」


三成に食いつく正則を言葉一つで制する清正。ぽかんと呆ける正則に顎で示す。


<出かけるぞ>





〜〜〜
馬に跨り四人は白浜を目指す。結局、半兵衛の「青がみたい」の一言に四日費やす羽目になった。三成はムッとした表情を顔に貼り付け、清正は終始無言。行く宛てを聞かされていない正則だけが、半兵衛と取りとめの無い会話をしてはしゃいでいた。目指すは白浜が青い海。


「ここからは馬で往けないから脚だよね」

「おぉ!脚っスか!俺、脚には自信あるっスよ!」


ひょいと馬から飛び降り、早々と歩き出す二人。目前にある斜面の強い丘を見て、清正は苦笑いをした。


「ま、良い運動だと思うしかねぇな」

「面倒な運動だ」


そう言うなり三成は岩に脚を乗せ、前へ進む。清正も後に続いた。両足に力を入れなければ転げ落ちそうな斜面である。周囲に木々も少なく、岩だけが唯一の命綱っと言ったところだろうか。三成と清正は、夏の日照りを背に受けながら、前方を楽しそうに動く白い帽子と、奇妙な髷を見据え、ただ黙々と脚を進ませる。どうして己が行かねばならんのだ。そう口に出さずと二人の顔には書いてあった。



「わぁ!」「おぉ!」


不意に前方から声が上がる。先を行く半兵衛と正則になにかあったのだろうか。三成と清正は互いに顔を見合わせ、大急ぎで岩を駆け上がる。丘の頂き。そこに並ぶ二つの背に向けて。


「正則!」
「竹中殿ご無事で…ッ!?」


清正に続いて三成が声を上げる。が、その言葉は音にならない。代わりに潮風と小波の音が耳へと鳴り響いた。

一面の青い海と一面の青い空。
視界一面の青い青い景色が広がっている。
今、そう、目の前に。


「…海だ」

清正が呟く。
ああ、そうだ。海なのだと、三成がそれに応えた。


広い海は尊大で雄大で偉大だ。
その海の青さが空に滲み出て、目前に広がる全ての景色が一つの青のように見えた。

不思議と先ほどまでの苛立ちが消えていく。旅の疲れが潮風で洗われていくかのようだ。


「どう?青い海」

半兵衛が満足そうにいった。その隣で、正則もにかっと歯を見せる。


「悪くない」

「同感だ」



屋敷に篭っているよりは数倍も良い。大きな一つの青を見て、どれほど己が小さき存在であるかを思い知らされる。海という存在が、まさにそれを知らしめた。そして痛恨した。なんと壮大な、青なのだろうかと。


「さぁてと!景色も見れたし、砂上まで行きますか」


半兵衛は一足先に丘を下り始めた。それに続くのはやはり正則。

三成と清正だけは、雄大な青さに目を奪われ動けずにいる。慢心していた小さき己を恥じているのだ。


ああ、そうか。そうなのか。まさか、この景色を見せるために半兵衛は、自分たち三人を連れて来たのではあるまいか。そう三成と清正は思った。


もちろん、頭の悪い正則には知る由もないことである。







〜〜
遅くなりまして申し訳御座いません!はわわ…「半兵衛+子飼いの日常」とのリクエストでしたが…あ、あれ。日常になって…ませ…ますよね!

これからもどうぞ宜しくお願いします★

誤字が無いことを祈りつつ…白浜まで四日ではいけないという突っ込みをしつつ…。

リクエストありがとう御座います♪

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