そのすべて好き ★ (クライ×沈黙)
「頂戴、は?」
クライが意地悪そうに笑う。
膝にちょこんと乗せた沈黙<しじま>が顔を赤らめた。
沈黙が自分の声を嫌っているのも知っている。
そしてどうしてもその声が必要になった時、照れながら言葉を紡ぐのも知っている。
あれだ。
好きな子はいじめたいという幼児並の考えと気持と同じ。
「言わないと食べちゃいますよ」
わざとらしくあーんと口を開け葡萄の実を口元に運ぶ。
「あわわ、ち、ちょう、…ッ!だいっ」
焦ったのか舌を噛みながらねだる沈黙を見てクライは頬にキスを落とした。
「冗談ですよ。ほら、あーん」
「あーん」
真っ赤になりながら大きく口を開ける。
皮を剥いた実を口に中まで運んでいく。
「美味しい、ですか?」
その問に素直に即答する。
「おいしい!」
思わず笑みが零れた。
ほろり
なぜだろう。
汚い心が崩れ落ちていくような。
「あーん」
気付けば沈黙がこちらを向いて葡萄を差し出していた。
腕が疲れたのか実を持った手が大きくぶれてクライの唇に押し付けられる。
「!!!!!?ごごご、ごめんなさ…ッひッ」
ぱくん
押しつけられた葡萄の実どころか白く細い指ごと噛みつく。
沈黙は悲鳴の端末を上げて混乱状態に陥っていた。
実を無理矢理飲み込んで指先を舐める。
指先が熱い舌に触れる感触にびくりと小さく震えた。
「たべ、たべ、食べれれる、ゆ、び」
涙を滲ませる沈黙がどうも可愛くなって指に歯を立てた。
「食べる、いや、嫌ぁ!痛いぃよぉ!」
本気で痛がっているようなので最後に名残惜しそうに一舐めして口を開ける。
そろっと手を抜くと沈黙は大きく後ろに退いた。
「なに、な、いま、手、食べ!」
びくびくと怯えて警戒態勢の沈黙。
あぁなんて愛おしいのだろうか
君の声、仕草、笑顔、味。
そのすべてがすべて全部愛おしくて、
そのすべてがすべて全部好き。
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