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Short story1
〜ツンデレラ〜2

※1の注意点をお読みください






それでは前回の続きからとなります。

唐突ですが、継母である小野寺はとても困っていました。

何故かと言うと、どうしたことかシンデレラであるはずの横澤が、家での留守番をなかなか承諾してくれなかったからです。


小野寺は見てわかるくらいに困った顔をすると、再度横澤に訊ねます。




「あ、あの、もう一度お聞きしますが本当に……」

「くどい。行くって言ってんだろ」



横澤は用意されていたドレスのファスナーを一気に上げると、堂々と答えました。



「…………。」



どうしてこれほどまでに横澤が行く気満々なのかはわかりませんが、ストーリーの原形と進行をやけに気にする継母は困り果てます。

そして同時に、もしかして自分だけ違う台本を渡されたのではないかと、とても不安になりました。



しかし、ここで折れるわけにはいきません。


何てったって、この継母は責任感が強いのです。
握り拳を作ると継母は背中に大量の嫌な汗を掻きながら、シンデレラに説得を続けます。



「ど、どうしても家に残ってもらえませんか…?」

「木佐!そろそろ出るぞ!吉野さん、準備はお済みですか。小野寺、テメーぐすぐずしてると置いてくぞ」

「はっ、はいっ!!!すみません!」






一瞬で折れました。


どうやら、シンデレラは継母よりも強かったようです。





「準備できたよー」
「こっちも大丈夫です」
「お、俺も大丈夫、です…」

「よし。なら行くか」




こうして無事、四人は身支度を済ますと、シンデレラの引率のもと徒歩で王子様の待つお城へと向かったのでした。









「……誰も居ないんだが」



そのもぬけの殻となった家を、ただ呆然と見つめる背中があったことも知らずに。









――――……




「…着きましたね」

「え、これ本物?貸し切り?」

「おそらく井坂さんあたりの仕業だろう」

「ま、丸川儲かってますね…」



歩くことおよそ三分。

各自思い思いの感想を述べる四人の前には、それはそれは立派なお城がそびえ立っていました。


全員いい歳をした大の大人でしたが、目の前に広がる非現実的な光景になんとなく興奮します。



ですが、その中でひとりだけガクガクと唇を震わせている者がいました。



継母です。

継母、小野寺はこんな出来の悪い役者達にこのような素晴らしい舞台が準備されていたことに青ざめていました。


この先、会社に居づらくなるのではないか。
そんな継母らしからぬ心配ばかりが頭を過ぎります。


けれどもそんな時、小野寺の不安を無理やり打ち切るかのようにお城からひとりの男性が現れました。

キチッとした服装に身を包んだその人物は、入り口に備え付けられている階段を降りると、四人の前で足を止めます。




「よく来たな」



羽鳥でした。



「なんだよトリじゃん!お前何やってんの?兵隊?」

「悪いが俺に、三十路手前で恥ずかしげもなく女装する変態の知り合いは居ない」

「お、俺だって好きでこんな格好してんじゃねーよ!!!」



劇中では初対面だというのに、いつものように接する吉野と、いつものようにそれを軽く返す羽鳥。

そんな仲睦まじい姿に、ストレスで胃が破壊されそうなほどに弱りきっていた小野寺は思わずほんわかします。


すると、おそらく案内役なのでしょう。
羽鳥は気を取り直すと四人を城の中へと誘導しようとしました。



「ではこっち、に…、…………。」



しかし羽鳥はそこであることに気が付きます。



「…ひとり、多くないか」


「……!」




その言葉に、小野寺は涙が込み上げそうでした。

やっと巡り会えた常識人だったからです。
小野寺は羽鳥に素晴らしい勢いで近付くと、救いを求めるかのように詰め寄ります。



「そ、そうなんですよ…!おかしいですよね!!?変ですよね!!?」



もっと言ってやってくれ。

そんな心の声がだだ漏れでした。


ですが案内人である羽鳥から返って来たのは、思いもしない言葉だったのです。



「まあいい。こっちだ」

「え……っ」



羽鳥は踵を返すと元来た道を戻って行ってしまいます。

小野寺は驚きました。


ここはもっと踏み込むべき所なのでは、とそう思いましたが、小野寺はすぐに気が付いてしまいました。



「……三十七分のロスか…」



そうです。

小野寺がストーリーの原形を気にするように羽鳥もまた、進行時間を気にしていたのです。

おそらく、自分達のくだらないやりとりのせいで大分無駄な時間を消費してしまったのでしょう。
それを知ると小野寺はもう何も言えず、ただただ黙って羽鳥について行くことを選びました。


この時に飲み込んだ涙の味を、小野寺はきっと、一生忘れません。



そして羽鳥に続き、長い長い廊下を歩いて行くと、道中やけにひとりだけキラキラと輝く見張りの兵が居たり、その兵が手を振ったことに対し木佐が小さく、バカ、と呟いたりもしていましたが、時間の関係上見事にスルーです。


そんなこんなで案内人に導かれ、四人は大きなドアに突き当たりました。


そのぶ厚い扉の向こうに待つのは、まだ見ぬ王子様役の誰か。


王子役が一体誰なのかはおおよそ検討が付きますが、せっかくなので次回に続きます。





―――――――
次回、あの人登場


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あきゅろす。
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