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Short story1
ハニートラップ 続



「なんか飲む?下、茶店だから頼めばすぐ来るけど」

「…いりません」




とある喫茶店の二階、そこに設置されたホテルルームの一室。
一糸纏わぬ姿の律は、無駄に高そうな羽毛布団に包まっていた。

その傍らでは高野が情事後の一服を味わっている。



「なに怒ってんだよ。ちゃんとイかせてやっただろ」

「そーいう問題ではありません!!!」



そういう問題ではない、……が、確かに高野の磨き上げられたテクニックは信じ難い程に上手く、未開発だというのに律は一発で快感を手に入れてしまったのだ。

まだ誰にも触れられたことのない、未開の地を徐々に開拓されてゆく悦びと、満ち溢れる興奮。

律は後ろで快感を得ることを知ると、気付けば自ら腰を振り、男へと縋っていた。



「いやいやいや!!!大いにフィクション入ってますから!このナレーション何なんですか!!?高野さんの味方ですか!!?」

「そうか、そんなに良かったのか。嬉しいよ…」

「キャアア!!!こっち来ないで!」



何かを勘違いし、煙草を灰皿へと押し付けると高野は再び律へと迫る。

そんな高野の気迫に押され、律は裏返った悲鳴を上げながら後退るがここはベッドの上。
まな板の鯉の如く、すぐに捕まってしまった。



「お前、すごくいいよ。見た目も性格も感度もドンピシャ」

「か…っ、感度は余計ですよ…」



妙に艶っぽい声を出し、じりじりとにじり寄る高野。

律が抵抗する気がないないことを悟ると、高野はその剥き出しの白い首筋へと口元を寄せる。



「ん……っ、なに…」



男の唇が触れたかと思うと、次に来たのはチリリとした微かな痛み。

まさか、と律が嫌な予感を過ぎらせていると返ってきたのは予想通りの言葉だった。



「キスマーク」

「はぁッ!!?ちょっと、なんてもの付けてくれんですか!」

「なんてもの、とはご挨拶だな。俺の愛の証だ」

「なーにが、愛の証ですか!!!こんなの仲間に見られたら大変なのはこっちなんですよ!!?」



そう、律は本来高野とは敵対関係にある。
それなのに話し合いに行くと言っておいて、親密な関係を表すかのようなキスマークなどというものを肌に付けて帰っては、見つかった際に大目玉だ。


どうしてくれるんですか、と怒鳴りつける律に高野は笑うと、ベッドサイドに置いてあったボールペンを手に取った。



「手、出せ」

「何する気ですか」

「いいから出せって」

「うわ…っ!」



グイ、と手を急に強く引っ張られ律はバランスを崩す。

その隙に高野は手にしたペンを構えると、律の手の甲に何かを書き記した。



「…なんですかこれ」



そこに書かれていたのはゼロから始まる十一個の数列。

それを見て眉を寄せると、律は訝しげな表情で高野へと訪ねた。



「俺の連絡先。プライベート用だから超レア」

「……馬鹿じゃないんですか、俺にこんなの教えて。誰かにこの番号教えるかもしれませんよ」

「それでもいい」



高野は綴られた数字の上に唇を落とすと、ゆっくりとベッドから離れてゆく。



「連絡待ってる」



そう言うと、ハンガーに掛けておいた上着を手にし、高野は鞄を拾い上げ真っ直ぐにドアへと向かった。

その振り返ることのない凛とした背中は、おそらく律が自分に連絡をしてくることを確信しているのだろう。
結局、一度も此方を見ることなく閉められたドアを見て、律は呆れたように笑った。





「……馬鹿なひと」




でも、個人的には嫌いなタイプではない。


そして律は携帯電話を手にすると、電話を掛け始めたのだった。









「あ、小野寺です。作戦ルートB、成功しました」





―――――――
まさかのこんなオチ

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あきゅろす。
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