Short story1 これください とある休日の昼下がり。 する事もないのでベッドにうつ伏せで寝転がり、本を読んでいたら高野さんがやって来た。 「なに読んでんの」 「角先生の新刊です」 「尻貸して」 「はいど……、って尻!!?ちょっと待ったーーっっ!!!!!」 驚きの言葉に俺は急いで上体を起こしたが、下半身をがっちりとホールドされていた為、俺の体は再びベッドへと沈み込んだ。 「離してください!何なんですか休みの日まで!!!」 「休みの日ぐらい俺を癒やしてくれたっていーだろ」 「尻で癒やされるのか、あんたは…!!!」 なんとか逃げ出そうともがいていると、高野さんの体温が俺の下半身に覆い被さってくる。 あ、でも、あったかいかも。 自分を包む暖かさが高野さんだということを頭から消し去れば、それはまるで硬質なブランケットのよう。 まあ肌寒かったし、丁度良い、かな。 そう、下半身にのしかかる体温に目をつむり、視線を手にした本に戻そうとしていた時だった。 「うわああぁあッ!!!!な、何してんですかーっ!!?」 「尻貸せって言ったろ」 「誰も本気にしませんよそんなの!」 尻に何かの感触を感じ取り、首を後ろに捻るとなんと高野さんがヒトの尻に顔を埋めているではないか。 マジでなにしてんの、この人…! 慌てて体勢を変えようと体をひっくり返そうとしたが、よく考えたら高野さんの顔がある場所的に、今俺が体を振り返らせるのは非常にマズい。 どうすることも出来ず何か良い手はないかと唸っていると、高野さんが俺の尻に顔を埋めたまま喋り出した。 「…俺な」 「うわっ!そこで喋んないでください!なんか振動が伝わって…!」 高野さんが発した言葉は短かったが、顔がぴっちりと尻にくっ付いている為かビイイイン、と微振動のような刺激を俺の双丘に与えた。 その感覚が嫌で、発言を禁止したと言うのに高野さんはそんな俺に構わず再度、口を開いた。 「いつか、この尻を俺の物にするのが夢なんだ」 …………、 え? 一瞬、自分の耳がおかしくなったのかと思い、もう一度高野さんの発言を待とうと頭だけで後ろを振り向くと、相変わらず尻に顔を埋めた上司の姿。 だが、少し待ってみても高野さんが動く気配はなく、俺はその様子に一つの決断を下した。 「なんだ、寝言か」 「…お前はだからどうしてそうなんだ…」 「あれ、起きてたんですか」 高野さんが目を覚ましていたことに驚き、そのまま黒い頭へと目をやっているとその頭が僅かに揺れ、はあ、と不機嫌そうな溜め息が聞こえた。 「こーゆー時は、もう俺の物だって言うのが少女マンガ的展開だと思うんだが」 「尻を捧げる少女マンガって何ですか。そもそも、高野さんにそんなこと言ったら何されるか分かったもんじゃないですし」 「………もう手遅れだろ」 ………。 確かにそうだが。 でも自分の体の所有権をこんな男になんて渡せるわけがない。 断固として渡してなるものかと頑なな意志を胸に秘め、だんまりを決め込んでいると、それ以上高野さんが何かを言ってくることはなかった。 …諦めてくれたのだろうか。 なんだか妙に潔すぎる気もするが、それならそれで好都合だ。 中断していた読書に戻ろうと、俺は活字の詰め込まれたそれに数分ぶりに視線を落とそうとした。 ……が。 「………高野さん」 「ん?なんだ」 「なんか、お尻がスースーしてきたのですが」 「気のせいだ」 …いや、これ絶対気のせいじゃないですよね。 ――――――― 尻いいなあ、尻 [*前へ][次へ#] [戻る] |