Short story1 愛だけいりません 夜の街で小野寺を見かけた時は、人違いだと思った。 「…お前、自分が何してたか分かってんのか」 部屋の電気は付けるべきだったかもしれない。 カーテンの開け放たれた窓から入る月の逆光で目の前に立つ小野寺の顔がよく見えない。 「そんなに大した事ですか」 いきなり俺に連れ込まれたにも関わらず、小野寺は落ち着いていた。 「男と寝るのって」 街で見かけた小野寺は、見た事のない男とホテルに入ろうとしていた。 俺はすぐさまコイツの手を引き、男から引き剥がすと無理やり自分の家まで連れて来たのだ。 小野寺は俺のきつい口調にも怯む事なく、平然とどうして自分が責められているのか分からないといった顔をしていた。 もしかしたら、本当に何故俺が怒っているのか分かっていないのかもしれない。 「じゃあ俺とでも良いんだな」 「良いですよ」 コイツは、男と身体を重ねる事を何とも思っていない。 小野寺の態度からはそんな事が感じ取れた。 「だったら、もう他の男と寝るな。俺とだけにしとけ」 「何でですか?」 「好きなやつが自分以外とやってたら嫌に決まってんだろ!」 どうしてそんな事も分からないのか。 感情的になり声を荒げる俺に、小野寺はさも面倒臭いとでも言うように溜め息をついた。 「愛とか、そんなのいちいち必要ですか」 「お互いが気持ちよくなれる、それだけで充分だと思いますけど」 この口振りからすると、おそらく今まで関係を持ったのは今日見た男だけではない。 その事実に顔も知らない相手への嫉妬心が湧き上がり、気が付けば俺は自分の拳を強く握り締めていた。 「お前、何考えてるんだ。昔はそんな奴じゃなかっただろ」 「高野さんが、教えたんじゃないですか」 セックスの悦びを、 鈍器で頭を殴られたような気分だった。 俺が、この青年を誰とでも身体を重ねるような奴にしてしまったと言うのか。 そうじゃない。 俺は、コイツを愛していたから、 「高野さん」 困惑する俺に、小野寺は妖艶な笑みを浮かべ語りかけた。 「セフレになら、なっても良いですよ」 何故、俺はこの時、 コイツの誘いに乗ってしまったのだろうか。 俺はこの事を、 のちにひどく後悔する事となる。 ――――――― こーゆーのもだいすき。 [*前へ][次へ#] [戻る] |