唐紅に
珍獣と猛獣


 静かに上昇する箱の中、まじまじと人の顔を見つめていたトールちゃんは、
「1組で二人くらい留学してればオレにも可能性あったのにぃ」とぼやいた。

 「友愛・親和・協調」を学校理念に掲げる明芳では、出来る限り違うクラスの生徒同士が同室になるように、寮の部屋を振り分けている。
 出来る限りというのは、6組の生徒は元が5組よりも少ない上に、休学やら退学やら人数の変動が激しくて、数が合わなくなる事があるからなのだそう。
 他のクラスでも留学する生徒などが年にニ、三人は出るそうで、その調整で同じ組の者同士が同室になることもある。そんなセンセの説明を思い出す。

 はああー、と肺中の酸素を吐き出すような溜息を吐いたトールちゃんはそのまま、くてっと俺の背中に圧し掛かった。


「……トールちゃん」


 体格差を考えて下さいコノヤロウ。

 ぺちぺちと腕を叩いて訴えてみたけど、首筋に顔を埋めたトールちゃんはぎゅぅうと俺の肩を抱きすくめるみたいに力を込めただけで、離れようとはしなかった。


「オレ、コタと同室が良かったー」

「なんで?」

「コタ、面白そーだもん」


 溜息混じりに言われても、返答に困る。


「そりゃどうも」


 面白いと思われるような言動は取ってないぞと思いつつ、等閑(ナオザリ)に返す。首筋に埋まった頭がぐりぐりと擦りつけられた。


「何だろ。コタってば色々と凄いよねぇ」

「……どこが?」

「んー、何てゆーか、猛獣使い?」


 繋いだままにされている手が、ブンブンと大きく円を描いて振られる。背後から手を握られているから、俺はまるで操り人形みたいな状態だ。


「も……猛獣使い?」

「そー。曲者が揃いも揃って懐いてたからー」


 ほへら、と力の抜ける笑顔をトールちゃんが浮かべて、到着したフロアに俺を押し出した。


「あの人達ねぇ、人の好き嫌いがスッゴイ激しくて有名なんだよー。なのに一緒に居たから驚いちった」

「ああ、センセと西尾先輩? でも、センセが俺と居たのは…」


 学園長に頼まれたからでは? と言い掛けた俺に、トールちゃんはゆるりと首を振った。


「きょんちゃんフツーはねぇ、興味のない人とはそれが仕事でもすぐに離れるのね。ぺたぺたしたりとか絶対ないし。コタはチョーお気に入りとみた!」

「げ。マジ? あれで?」


 脅迫とか笑顔の恫喝とかセクハラしか受けた覚えがないんですが。不安定ながら、俺のセンセ評価は決して高くないんですが。

 意外過ぎる発言と背中から離れない重みに、思わず正直に顔を歪めてしまう。


「マジでー! 従兄弟の言うこと信じなさーい」

「ああ、そう。……つか、トールちゃん何でくっついてんの」


 廊下にいた生徒のぎょっとした顔に、驚かしてゴメンと思った。でかいおんぶお化けを引き摺っている奴を見たら、俺も驚くと思う。


「離れましょうよ」

「どして?」


 きょとんとした顔を見る限り、この体勢がどれだけ傍目に変か、本当に解っていないようだった。


「視覚的公害。あと重い」

「そー? じゃあこれでイイや」


 背中からは離れてくれたものの、再び手を繋がれてしまった。
 W佐々木はスキンシップがお好きらしい。


 

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