唐紅に
5
館林との初交流が失敗に終わったとか、よりにもよってヒロム君と間違えた、とか。色んなショックで呆然としていた俺を起こしたのは、繰り返されるドアチャイムだった。
当然館林ではないし、寝るとメールしたのだから、時間的にトールちゃんたちでもないと思う。
見当のつかない来訪者は無視してしまいたい気分だったけど、止まない音に渋々腰を上げた。
何と言うか、今日の俺には、ろくに落ち込む暇もないらしい。
「こんばんは。お邪魔しても良いかな?」
「…………」
開けた玄関扉を思わず閉めた。が、それは差し込まれた相手の足によって阻まれてしまった。
「やだな、そんなに驚かなくても」
「や、普通にビックリします。てゆか、部屋、間違ってませんか」
何で王子が。
押し売り宜しく差し込んだ足でドアを抉じ開けた王子は、お邪魔します、と笑顔で奥へ進んだ。
いくら上位部屋のある一画に人気がないといっても、玄関先での立ち話じゃ誰に見られるかわからない。だから入ってもらうのは良いんだけど、今は時期が悪いと言うか、再来週くらいまで会いたくなかったと言うか……いや、個人的に会う機会なんて、時期関係なく遠慮したい。
刺激物との対面はもうお腹いっぱいなのだ。
風紀室を出る時、クジの番号を知らせる以外にもうひとつ、西尾先輩から言い付けられた事がある。
『せっかく俺が匿ってやったんだ。最低でも公開抽選まで、小森に見つかるんじゃねぇぞ』
王子は昼休みからしばらく、俺を探していたらしい。弱みを握られているという、哀れな生徒会役員伝の情報と共にそう告げた、西尾先輩の笑顔を思い出して顔が引き攣った。だから会長に言われても、生徒会室行きを断ったんだけどなぁ。
……後でバレるよりはマシだと思いたい。
只今、副会長に突撃訪問されてます。と、正直にメールを送った。うう。次に会った時、先輩に何を言われるか、想像する事すら恐ろしい。
「春色君も、こっちにおいで」
廊下で立ち止まっていた俺を、居間のテーブルに着いた王子が手招いた。優雅に脚を組んで、どっちが部屋の主か判らない寛ぎっぷりである。
零れそうになる溜息を、俺はそっと飲み込んだ。
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