唐紅に
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 館林との初交流が失敗に終わったとか、よりにもよってヒロム君と間違えた、とか。色んなショックで呆然としていた俺を起こしたのは、繰り返されるドアチャイムだった。

 当然館林ではないし、寝るとメールしたのだから、時間的にトールちゃんたちでもないと思う。

 見当のつかない来訪者は無視してしまいたい気分だったけど、止まない音に渋々腰を上げた。
 何と言うか、今日の俺には、ろくに落ち込む暇もないらしい。


「こんばんは。お邪魔しても良いかな?」

「…………」


 開けた玄関扉を思わず閉めた。が、それは差し込まれた相手の足によって阻まれてしまった。


「やだな、そんなに驚かなくても」

「や、普通にビックリします。てゆか、部屋、間違ってませんか」


 何で王子が。
 押し売り宜しく差し込んだ足でドアを抉じ開けた王子は、お邪魔します、と笑顔で奥へ進んだ。

 いくら上位部屋のある一画に人気がないといっても、玄関先での立ち話じゃ誰に見られるかわからない。だから入ってもらうのは良いんだけど、今は時期が悪いと言うか、再来週くらいまで会いたくなかったと言うか……いや、個人的に会う機会なんて、時期関係なく遠慮したい。
 刺激物との対面はもうお腹いっぱいなのだ。



 風紀室を出る時、クジの番号を知らせる以外にもうひとつ、西尾先輩から言い付けられた事がある。


『せっかく俺が匿ってやったんだ。最低でも公開抽選まで、小森に見つかるんじゃねぇぞ』


 王子は昼休みからしばらく、俺を探していたらしい。弱みを握られているという、哀れな生徒会役員伝の情報と共にそう告げた、西尾先輩の笑顔を思い出して顔が引き攣った。だから会長に言われても、生徒会室行きを断ったんだけどなぁ。



 ……後でバレるよりはマシだと思いたい。

 只今、副会長に突撃訪問されてます。と、正直にメールを送った。うう。次に会った時、先輩に何を言われるか、想像する事すら恐ろしい。


「春色君も、こっちにおいで」


 廊下で立ち止まっていた俺を、居間のテーブルに着いた王子が手招いた。優雅に脚を組んで、どっちが部屋の主か判らない寛ぎっぷりである。
 零れそうになる溜息を、俺はそっと飲み込んだ。

 

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