唐紅に
4
「小森先輩が俺と一緒にいるって、難しいです」
生徒会は新歓当日の進行役を担う。基本的に明芳の行事は生徒が主体となって動くのだと、理一さんが昔言っていた。だから王子も期間中は当然仕事がある訳で、大半が別行動になるはずだった。それに班行動が優先されるような場合でも、王子は俺と話す暇なんかないだろう、と思う。
「はぁ?」
言い切ったのが不思議だったのか、西尾先輩が軽く眉を寄せた。
「論拠は」
「えっと、他の人にモッテモテ、でしょ?」
お貴族サマが、生徒会が大人気なのは、新入りの俺にも、よーく解った。彼らは彼らとだけ連んでいて、日頃あまり他との交流がない事も。だから僅かな接触が大騒ぎになるんだ。
ところが新歓では、そんな雲の上の住人みたいな彼らが、自分たちと同じ班になる。近付き易くなる。
ここぞとばかりに、他の人から群がられるんじゃないのかな。
「おぉ」
西尾先輩は眉を寄せたまま無反応だったけど、部屋の隅で小さく声が上がった。
「後輩ちゃん、馴染むの早くね?」
「順応性っつーか、理解が早い? おまえ楽だなぁ」
「へ? そうですか?」
「ああ。高等部からの奴は、普通ある程度経たないそんな風に考えらんないぜ?」
だとしたら、根岸のお蔭だ。俺が『下手打たないように』聞いてもいないお貴族サマ関連の話を教えてくれるのだ。
ちょっと煩いとか思っててごめん。今度フルーツ牛乳でも奢るよ。覚えてたら。
「春色。それじゃ80点だ」
「せいぜい60点だろ」
こっそり根岸へ感謝していた俺に、安芸先輩が気の毒そうに言った。即座に西尾先輩が切り返す。
「え?」
「一緒にすっと面倒起こす連中もいるんだぞ。クジ引きなんてのは割り振りの取っ掛かりだっつーの。その後ちゃんと生徒会が調整するに決まってんだろ」
ふんぞり返った西尾先輩に向かって、安芸先輩が深く溜息を吐いた。一拍遅れて上田先輩が悲鳴を上げる。
「あぁっ! 班長それ、一応機密なのに!」
「ンなもんコータが喋らなきゃ問題ねーよ。なぁ?」
そう言ってにやりと笑った西尾先輩は、ワルモノの貫禄たっぷりだった。
「調整は小森の仕事になる。コータの班は、小森にとって都合の良いヤツらで固められるぜ? アイツに群がんねぇヤツが揃ったら、おまえの論は成立しねーぞ。だから60点!」
「う……」
「結局、小森の思惑通りで? バカ共はコータに非難ごーごーで? 随分と楽しい構図の出来上がり、だな?」
「あう、それは、」
厭だ。物凄く厭だ。地味ライフが遠退く気配がプンプンする…!
青褪める俺を、西尾先輩はにやにやと眺めていた。「やっぱおまえ、まともだわ」とか何とか小さく呟いて、飴の棒で、再びぐるりと室内を指した。
「ウダウダ考える前に、誰と組みたいか、サクッと選べ。こっちも小細工してがっちりガードしてやんよ」
「…………」
ええと、小細工で抽選結果をどうにか出来るなら、俺を一般生徒だけの班にしてくれないだろうか。王子と一緒というのは断固としてお断りしたい気持ちになったんだけど、風紀の皆さんも充分目立つし、人気も高い(らしい)。ほら、西尾先輩に至ってはストーカーもいるくらいだ。
村人Eくらいの役どころを希望したい俺には、風紀の皆様と一緒にいるのもハードルが高いんだよなぁ。
……なんて、思ったのがバレたらしい。
ギャングのボスも真っ青なご面相で、テーブル越しに頭をがしっと掴まれた。
「拒否権はないからな。断ったら、ちゅーすんぞ」
ずいっと先輩の顔が近付く。
「ぎゃっ」
逃れようにも先輩は怪力で、力を入れた首の筋が切れそうなくらいに突っ張るだけだ。ギリギリまで寄せられた顔に、遠慮なく冷や汗が流れた。
「バカッ面」
冷や汗を掻く俺の顔をまじまじと見つめていた先輩は、ぷふっと噴き出してから顔を離し、にやぁっと口角を引き上げた。
……何だ、揶揄われたのか。うわー、ビックリした。
「あ、断るなよ? 断ったら本当に、上田にべろちゅーさせっから」
「はっ!?」
奇しくも、上田先輩とハモった。
胸を撫で下ろしたところを狙って、ああもう、この人は!
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