唐紅に
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 学年クラスを越えての交流が目的である新歓は、毎年、各学年クラスの異なる四人ずつを抽選で振り分け、計十二名でひとつの班を作る。期間中は全生徒、班単位での行動が基本となるのだ。但し、当日の警備や進行を担当する風紀委員と生徒会役員は、この班割りに組み込まず完全な別枠とする。

 それが去年までのやり方だったらしい。

 だけど今年は「一般生徒とのより深い交流を図る為」と、風紀委員会も生徒会も一般生徒と同条件で、但し公開抽選という方法で、班行動に参加することになった。

 一般生徒のみ振り分けた班を記した紙を抽選箱に入れ、全校生徒の前で該当の各人が引く予定だという。皆の前でやるのは「チャンスは平等ですよ」というアピールなのだそう。



 安芸先輩は例によって覇気のない喋り方でそこまで語ると、ふぅ、と背凭れに深く身体を預けた。

 新歓って、結構大掛かりな行事なんだなぁ。

 公開抽選が始業式の時のような、ちょっとしたお祭り騒ぎになるだろうという事は、来て日の浅い俺にでも簡単に想像出来た。これだけでひとつの行事になる気がする。

 本番の前準備でしかない班決めの為に、イベントを企画しちゃうのか。
 この予想は当たっていたらしく、横目で窺い見た安芸先輩が苦笑気味にコクンと頷いた。


「今年は、いつも以上に盛り上がる。と、思う」


 歓迎会なんて、内部生ばっかりなんだし、形だけのものだと思っていたんだけどな。


「何を暢気に感心してんだ。生徒会……っつーか小森がこんなシチメンドクセェこと言い出したのは、おまえと組む為だぜ?」


 くぁぁ、と猫みたいな欠伸をしていた西尾先輩が、ちろんと視線を寄越した。

 王子の名前に、あの甘ったるい表情がポンと脳裏に浮かんだ。次いで食堂での遣り取りも。
 でも俺が誘われたのは食事だ。それも会長との一件から出た、社交辞令で。



「このままだと強制的に小森と同じ班だろーな。アイツ、周りが諫めても聞きゃしねぇ」

「え、でも抽選なんでしょう?」

「そんなもん、ちゃちな細工で簡単にズル出来るだろーが」

「……えーと…」


 王子が俺と同じ班になりたい? 何で?

 仮に彼の言った通り、あの誘いが「本気」だったとしても、食事と新歓で同じ班になるというのでは、ちょっと質が違うんじゃないかと思った。どちらもメリットがなさそう、という点で共通してるけど。

 俺にも王子にも無益だろう、と頭の中で結論付けた。組む理由がない。

 確かに王子は親切な人だ。だけど友達でもないのに。


「おまえらの噂にも『そんなの別れることだって、良くある話だよね』ときたもんだ。ふざけんなっつーの」

「う……えっと、それって、」

「小森相手にトールは抑止力にならねぇ。まんまと同じ班になったりしてみろ、四六時中張り付かれるくらいするかもな。そりゃコータだって厭だろ?」

「……物凄く」


 あんなキラキラした人と班行動──考えただけで恐ろしい。
 眩くて目が潰れそうだし。もし、万一、他の班員も居る前で、あの甘ったるい空気を醸し出されたら。きっと俺は、恥ずかしくても動けなくなる。



 ……駄目だ。想像だけで目眩がした。


 もしも王子がアレで、しかもまた公衆の面前で、そんで周りから奇声を上げて睨まれたりしたら。俺、今度はぶっ倒れる気がする。


「あ、あれ? けど、先輩」

 ぶわっと浮かんだ怖い想像の中に、ちょっとだけ光明を見出して、俺は身を乗り出した。


 

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あきゅろす。
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