唐紅に











 ああ、夢を見ているな。と、思った。



 どこまでも続く真っ白な空間の中に、意識だけが漂っていた。

 意識だけの俺が、膝を抱えた俺を俯瞰(フカン)していた。夢だ。



 白一色で塗り潰された空間では、時間の経過も曖昧で、一体いつから此処に居たのか、いつまで此処に居るのかも判らない。ただ無性に悲しくなる純白を、俺と俺は、ぼんやりと眺めていた。






 ──どのくらい経ったのか。
 変化など有り得ないように思えた空間に、ぽつり、と染みが浮かんだ。


 (ああ、夢だなぁ…)


 白はあまり好きじゃない。眩しすぎて泣きたくなる。
 その気持ちに呼応するかのように染み出した赤に、いよいよ夢なのだと実感した。
 赤い染みは不規則に、そして急速に広がってゆく。見る間に視界を埋め尽くす赤。座る俺が声にならない叫びを上げた。

 俺も感じていた悲しさが薄れ、代わりに恐怖が迫上る。……これは、下に居る俺が感じているのだろう。

 意識だけの俺が首を傾げた。



 赤は、紅は、俺の色だ。


 何に震えてるの?


 音にしなかった疑問に、遠くで応える声があった。




『だって、──は────だもの』




 揶揄うような音は、遠すぎて不明瞭だった。

 俺の上げる声なき悲鳴が五月蝿くて堪らない。



『──は、ハ──きら────て』




 なぁ、聴こえないよ。



 もう一回、言ってくれないか。









 

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あきゅろす。
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