唐紅に
3

 本音と建前を使い分けましょうよ。この正直者め。

 報道部とは何ぞや、と、熱く語って聞かせる根岸の話を、些か拗ねた俺は返事もせずに聞き流していた。



 とはいえ、大凡の活動は理解した。
 中高共同の部活のひとつである報道部は、活字だけでなく、映像での活動もしているらしい。新聞部と放送部の活動を一緒にして、そこに映像での仕事(校内のテレビ放送や、行事ごとの記録映像撮影など)も加わったもの、と考えれば良さそうだ。


「でも報道部のメインはゴシップ紙でしょお? ネギッシーってばこっちのネタ探し目当てで、コタに話し掛けたんだぁ」

「えっ! いや、そんな事はあったりなかったり…?」

「……根岸君、」

「いや、そうだけど、それだけじゃねえよ!? ……んな目で見るなよぉ!」


 鈴彦にまで溜息を吐かれた根岸は、パニック気味に俺に縋った。
 人の純情を弄んだんですね、と俺もわざとらしく溜息を洩らせば、より一層狼狽える。

 一瞬でも勇者と崇めた俺にすれば、その理由はちょっとショックだったのだけれど、忙しなく表情を変える根岸は憎めない奴だった。

 もう少し弄ってやりたかったのに、半べそ掻いてあわあわと胸の前辺りで両手を上下させる眼鏡に、降参。


「あー、もう、無理!」

「春色ぃ…」


 抑えようとしても抑えきれない笑いに悶える。俺を見て、根岸は更に目を潤ませた。情けなく下がった眼鏡の奥に覗く涙目が、怒られた仔犬っぽくてまた笑える。



 一頻り笑った俺は、笑い過ぎて流れた涙を拭い、根岸に手を差し出した。


「俺、提供出来るようなネタなんてないと思うけど」


 改めて宜しく、の握手。


「それは大丈夫! あんたは特ダネの匂いがする!」


 途端に復活した根岸は、目を輝かせて身を乗り出した。
 さっきまでのプルプルした仔犬はどこへ行った。

 やっぱり建前を使えない馬鹿正直な眼鏡は、自分の好奇心にどこまでも忠実だ。あまりの勢いに俺も仰け反る。


「はいネギッシー近過ぎー!」


 椅子から滑り落ちそうになった俺をとっさに支えたトールちゃんが、にんまりと根岸を覗き込んだ。


「コタへの取材はオレを通してねぇ。ウチの子高いのよん?」

「っ、そこはサービスして下さいよー」

「えぇ〜、どーしよっかなぁ。イチオシだしぃ、んー……この位でどお?お客サン」

「うおっ、もうちょい勉強して…!」


 余程好きなのか、根岸は部活の事となると、金髪への苦手意識も飛ぶみたいだった。妙な掛け合いを始めた二人を眇目で見る。

 実はめちゃくちゃ気が合うんじゃないの?

 どういう設定なのか解りたくもない小芝居を続ける彼らに呆れていると、視界の端で鈴彦がことりと首を傾けた。


「斗織君はコタ君のお父さんになったの?」

「そー。さっすが鈴ちゃん、よく解ってるー!」


 上機嫌に返すトールちゃんに、そっか、と微笑んだ鈴彦は、きゅっと両手で俺の指先を握った。反射的にドキッとしたのは不可抗力です。


「コタ君、大変だと思うけど、斗織君をよろしくね」


 わあ、鈴彦ったら本当によく解ってる!


「宜しくも良いが、いい加減に前を向け」

「だっ!」


 底冷えする声に振り返ると、トールちゃんの頭を出席簿で殴ったらしいセンセが、ブリザードを背負って立っていた。


 

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