唐紅に
4



 誰も気にしていないようで、思いの外見られていたらしい。


「あれ誰?」

「外部生じゃない?」

「噂の?」

「佐々木君と一緒って」

「名前で呼んでなかった?」

「結構好みかも」

「マジで? 趣味悪くね?」

「つーか意外と普通…」

「誰だよ、根暗なガリ勉って言ったの」



 クラスメイツはひそひそと俺を話題にしていた。
 ……そりゃそうか。
 見慣れない奴(これだけで外部生と判ると思う)が、クラスで力を持っているらしい金髪に連れられてたんだもんね。

 “根暗”じゃないけど“ガリ勉”は当たってますよー。

 小さく聞こえてくる会話に、心の中でこっそり返事をしてみる。



 春休み中に他と交流する機会のなかった俺は、トールちゃん以外の全員が初対面だった。何だか色々と恐い科白も聞こえたけど、話題に上がっている今が、初交流のチャンスかもしれない。


「……?」


 しかし、ファーストコンタクト! と近くの人に顔を向けると、何気なく目を逸らされた。


「……んん?」


 その人だけじゃない。細波のような囁きは止まないのに、俺が目を向けると皆一様に視線を逸らす。





 ちょっと、これは、

 本当に馴染めそうに、ない?





「俺の友達百人計画が……」


 無意識に呟いていた。珍獣扱いは覚悟してたけど、疎外されるのは想定外だ。ヘコむ。


「どしたの? 緊張してる?」


 机に張り付いた俺に、トールちゃんが気遣わしげに問い掛けた。長い指がそっと髪を梳く。


「緊張っていうか、ちょっと人見知りする自分にガッカリしてるみたいな、ですね」


 顔だけ横に向けて笑う。ちょっと苦笑っぽくなったのは見逃して下さい。

 目立ちたくない俺だけど、孤高を気取るつもりはなかった。友達百人の実現は無理でも、せめて五人は友人を作りたい。友達ならその倍くらい。

 でも視線すら合わせ貰えない中、友達作りの為とはいえ、自分から話し掛ける勇気は湧かなかった。誰か声を掛けてくれないかな…なんて、そんな勇者は望めそうにないし。


「人見知り……んーと……」


 ゴリゴリと机に額を擦りつける俺の様子に、トールちゃんは「うう〜ん、うあ〜」と奇声を上げた。


「あ、あ、そだ! オレのトモダチ紹介したげる!」

「……へ?」

「ちょっと待っててねぇ」

「え、あの、」


 言うが早いかトールちゃんはさっさと席を離れてしまった。

 廊下に出る金髪を目だけで追って、友達って余所のクラスの人なのかなと思う。
 まさか金髪同盟の面子じゃないだろうなと考えて、そういえば館林はまだ戻ってないんだし違うか、と思い直した。
 他に同盟を組んでる人がいるのか知らないけど。

 それにしても、


「友達いたんだ…」


 今まで考えもしなかったけど、幼稚舎から明芳に通うトールちゃんに学内の友達がいるのは当たり前だ。だけれど俺と加瀬以外には誰かと話す姿を見なかったから、何となくトールちゃんには親しい友人は他にいないのだと思い込んでいた。

 西尾先輩とか寮長とかは親しげだったけど、友達とはちょっと違うように感じたし。センセとは従兄弟だし。

 俺にべったりだったこの1週間、他の友達と遊ぶ予定などが入っていなかったのかが急に気に掛かった。もし俺の為に予定を変更していたりしたら……申し訳なさ過ぎる。



「なぁなぁ」


 つらつらと保護者を自称する友達の交友関係に思いを馳せていた俺は、前方から声を掛けられて軽く飛び上がった。


「あんた外部生だよな」

「……俺?」

「そう。あんた」


 わあ、勇者様…!

 そいつは椅子を跨いで後ろ向きに座ると、低い姿勢から俺を覗き込むように見上げた。


 

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