唐紅に
同室者
気分屋で喧嘩上等だから、目が合っただけで半殺しにされた奴がいる。
素手でアスファルトを剥がしていた。
寝ている所を邪魔すると確実に血を見る羽目になる。
絡んできたチンピラ擬きが簀巻きにされて海に捨てられた。
「大半は噂だけどさ。館林見てたら、強ち嘘とは思えないんだよな」
しみじみと呟く加瀬は、館林が苦手らしい。
俺は「よくもまあ、派手な伝説を作ったものだ」と感心していた。
物騒な話なんだけど、ここまで突き抜けていると、怖がるより先に拍手したくなる。
「あー……腕力だけで人を投げ飛ばせる人もいるくらいだし、アスファルトだって素手で剥がせるかもね」
他に感想といえば、これくらい。
何しろ俺は、西尾先輩の怪力を目の当たりにしちゃいましたから。実際に体験した人投げの恐怖は強烈だった。
あの衝撃を思い返して身震いしていると、加瀬が嘆息した。
「お前やっぱ変」
失礼な。
「言われてる程、しゅーへーも扱い辛くないんだけどねぇ」
不味い物を呑み込んだような顔をした加瀬とは対照的に、トールちゃんは音がしそうなウィンクをくれた。
「オレはしゅーへーから、そんなに嫌われてないしィ?」
「そりゃお前は金髪同盟だからだろ」
「金髪同盟?」
思わず聞き返した俺に、加瀬が苦笑いで教えてくれた。
「館林ってな、すっげぇド金髪なんだよ。トールも顔負けの綺麗なキンパなの」
「あぁ、髪色でシンパシィ感じてたり?」
「え、納得しちゃうのぉ!?」
あれ。違ったのか。
明芳は服装頭髪に関しての規則が緩いらしい。
食堂などで他の生徒を目にするけど、黒髪のままという人は少なかった。それでもほとんどは自然な茶髪で、トールちゃんのようにキンキラの髪色というのは見掛けない。西尾先輩みたいなピンクヘッドも勿論いなかった。
金髪にするのって度胸いるよなぁと思う俺としては、少数派同士気が合うのかと思ったら。
「しゅーへーも腐れ縁ー!」
憤慨されてしまった。
「もしかして館林ともずっと部屋が近いの?」
初等部時代はずっと、加瀬とトールちゃんは一緒のクラスだったと聞いている。クラスが分かれた中等部時代は、代わりのようにずっと同室。そのトールちゃんと館林が腐れ縁なら、加瀬だって同じだろう。その割に、苦手そうだけど。
「おー。ヤンキーで学校嫌いな癖に勉強は出来るっつーか、あいつも大抵5位以内だな」
「え、秀才…!」
努力しないと成績の上がらない俺には、羨ましい限りだ。
「やだコタ、そのビックリは今更だよぉ」
コソ勉とかしてるのかなぁと考えていたら、トールちゃんが猫みたいな顔で笑った。
ええと、そうか。
日頃の言動の所為で忘れがちだけど、隣人コンビは毎回、首席と次席を独占している秀才だった。そりゃ館林も秀才組だよな。
「コタと同室なんだよお?」
「1組の上位だって」
「……それもそうですね」
……ちょっと恥ずかしい。
それにしても。
ヤンキーさんで頭良いって、何だか親友を彷彿とさせるフレーズだと思った。
見た目もやってる事も、どう考えたって不良のそれなのに、自分がヤンキーだという意識は全くなかった友人。
ヒロム君と呼んでいた彼は、喧嘩よりも勉強が好きという変わったお人で、よく「人をヤンキーみたいに言うな」とぼやいていた。
手も早かったし、怒った時の威圧感も半端なかったけど、普段は真面目で優しくて。
笑うと見える八重歯が可愛い、俺の大好きな親友。
共通点を見つけると、ますます館林に興味が湧いた。
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