唐紅に
2
「二人とも俺の同室者を知ってるんだよね?」
何を隠そう、俺はまだ同室者に会っていない。
春休みも日数を残す内は、まだ帰寮していない生徒も多いようだったから、同室者もその口だろうと特に気に掛けなかった。トールちゃんが俺に付きっきりだったお蔭で、若干鬱陶しくも寮内の生活に困る事はなくて、余計に不在を意識しなかった。
だけど明後日は始業式で、学校が始まる。
既に戻って来ている可能性もあるんだ。
そう気付くと、急速に期待と不安が胸に広がった。
「どんな人?」
仲良くなれたら良いなぁ。
息の合う隣人コンビを見ているとそう思う。
「んー……まぁ、あれだ」
だけど加瀬は、酷く強張った顔になった。
「えーと、加瀬さん?」
「しゅーへーは、ヤンキーなのね」
「どっからどう見ても、完璧にヤンキー」
ゆるゆると笑うトールちゃんに、加瀬も深く同意する。
「あー…あんまり素行の宜しくない、カラフルな頭をした人ってことか」
地元の友人たちを思い出し、俺はふんふんと頷いた。
「何と言うか、それはまた馴染み易そうな方ですね」
王子みたいにキラキラした人より、やんちゃなお兄さんの方が慣れている。
“休憩室”の面々を思い出し、ほこほこした気持ちになっていたのだけど、
「マジで!?」
どうしてだろう、声を揃えて驚かれてしまった。
「……何が?」
目を丸くした二人に首を傾げると、加瀬がガリガリと頭を掻く。
「あのさ、ヤンキーだぞ? 喧嘩上等の最凶野郎だぞ?」
「うん」
「絡んだ奴らは悉く血祭りに上げられてんだぞ?」
「絡まなきゃ良いでしょ」
「しゅーへーって、見た目も怖いよお?」
「あはは、それって西尾先輩たちも変わんなくない?」
二人は何とかして、俺に「ヤンキー怖い」と言わせたいらしい。
でも俺の友人は、ほとんどがやんちゃな人だったのだ。
頭髪がカラフルだろうと、体中にピアス穴が開いていようと、多少のことには見慣れてしまっている。
それに、俗にヤンキーと呼ばれる人達の皆が皆、凶暴で粗野とは限らない事を俺は知っていた。
恐ろしく男前な人もいたし、超頭脳派の人もいた。何でチームに入ったの? と訊きたくなるような、温厚なタイプもいた。言葉や態度が荒々しかったり、変なところで素直じゃなかったりするんだけど、彼らは一度打ち解けるととても親切で優しかったりする。
確かにやたらと力比べをしたがるその精神は共感出来ないし、敵と見做せば容赦なく力で排除しようとする所は怖い。でもやんちゃな事は、俺が怖がったり嫌ったりする理由にはならなかった。
俺の知っているヤンキーさんは、トップがトップだったから、またちょっと特殊なのかもしれない。
さすがに、俺に理不尽な暴力を振るうような相手なら、仲良くは出来ないと思う。
でも、そこはそれ。
まずは相手を知ってから、距離を決めれば良い。
これは、学園の異文化に今すぐ順応しろと言われるよりも、俺には容易いことだった。
トールちゃんの腕から脱出した俺は、掻い摘んで“大丈夫”の理由を話した。
「さっすがオレの息子〜!」
「コタって……変だけど、変なトコで凄ぇよな…」
目をきらきらさせたトールちゃんは、俺にタックルすると、両頬を掌でむにむに揉んだ。加瀬も俺の髪を撫でる。
だからお子様扱いは止めれって…!
「変じゃないし。俺は普通!」
「んーん、すっごいよぉ。コタいい子」
言い返すとトールちゃんは、素敵な笑顔で更に俺を子供扱いした。加瀬も頷くだけで止めてくれない。
その所行にムッとして二人の手を叩き落とした俺は、ついでに、またもくっつく自称保護者と距離を取った。
「ま、コタなら館林とでも、案外上手くやってけるかもな」
加瀬が落ち込んだ振りをするトールちゃんの肩を叩きながら苦笑を浮かべる。
「でもヤバイ時はいつでもうちに避難しろよ? あいつマジで切れると見境ないから」
「あっは。しゅーへーお馬鹿さんだもんねぇ」
「そんな可愛いモンじゃないだろ…」
厳しい顔になった加瀬はぐっと声を低めると、如何に俺の同室者が恐ろしいかを語った。
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