唐紅に
週が明けて



「第二講堂って狭くてヤだねぇ。暑っ苦しいったらー」

「狭くないし。普通だし。てゆか暑苦しいのは間違いなく体勢の所為だし」


 俺の背後から肩に腕を回し、ぴっとりと張り付いたトールちゃんに体重を掛ける。
 金髪は特に気にした様子もなく俺を支え、肩に顎を乗せた。


「えぇ〜? でもこの人数だよお? 熱気籠もってるよお」


 確かにそれは本当だったので、反論を止めた。ついでに、悔しい上に歩き辛い姿勢を戻す。それでもくっついたままのトールちゃんに、何だか安心している自分がいた。



 先日の情緒不安定さの名残か、それとも館林と一度も顔を合わすことなく──比喩ではなく、あれから俺は本当に一度も館林を見ていなかった。部屋に帰って来ている気配はあるのに、生活時間が違うのか避けられているのか、後ろ姿すら見掛けなかったのだ──週末が過ぎた事で、機嫌が上向いたのか。この金髪は週末からいやにスキンシップが多くなっていた。

 こういう人目に付く所でぺたぺたされると、悪目立ちするから厭だ。
 今だって、扉の脇で立ち止まって喋る俺たちは、色んな人に見られている。邪魔そうにしていたり、驚いていたり、中には二度見していく人もいて、腹の底がムズムズしている。

 それなのに腕を解かないのは、あの悲しそうな雰囲気でいられるより、何倍も良いからだった。トールちゃんもくっついていると落ち着くのか、この週末でだいぶ調子を取り戻したのは事実である。



 加瀬やトールちゃんの様子に、館林のこと。新歓のメンバーも、王子襲来に対して無反応だった西尾先輩も気に掛かる。

 考える──というか、心配に思う事が、今の俺には幾つもあった。そんな状況だったから、心配の種がひとつでも減るのはありがたい。



「なーんで第二でやるかなー。第一が良かったよお」

「座席は要らないって事じゃない?」


 前方に舞台があるだけの広い空間──俺の知る体育館とよく似た構造の第二講堂に、生徒が続々と集まっていた。
 月曜日の今日、これから午後の授業を潰して、新歓の班割り抽選が行われるのだ。

 人だかりの中、俺は今朝、教室で知らされた自分の班の番号を探した。15番の札は、入り口のすぐ近くで掲げられていた。


「俺あっちみたい」


 開始前に生徒は班ごとに整列していなくちゃいけない。
 あんまり時間がないよ、と、不平を零す金髪の腕を叩く。渋々離れてくれたトールちゃんも自分の班を見つけ、うえぇと厭そうな声を上げた。


「サイアク、ここでもコタとちょー離れてる!」

「42番だっけ?」

「そー。あそこ」


 俺の班とは反対側の壁際近く前方に、トールちゃんの班番号はあった。入り口からは遠く、行くのが大変そうな場所だ。……トールちゃんならモーゼ現象を起こせるから、楽勝かもしれない。


「ね、コタ、先に帰ったりしないでね? ちゃんとオレ待っててね?」

「はいはい」

「絶対だよぉ? 一緒に帰ろーね!」

「はいはい、そこら辺で待ってるよ。んじゃ、後で」


 何を心配しているのやら、迎えに行くからねー! と念を押すトールちゃんを送り出し、俺も自分の待機場所へと急いだ。


 

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あきゅろす。
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