唐紅に
5

「あーもぉ、コタは大丈夫だって思ったのにぃー!」


 頭を掻き毟るトールちゃんの態度は実に不思議だったけど、彼が何を懸念しているかは解った。


「俺がまた館林から押し倒されるってことは、ないんじゃないかな?」


 こんな可能性を自分で言いたくないが、トールちゃんの心配は、その点にあるのだ。

 館林は、学園でも少数派に入る自覚済みの真性ゲイで、中性的なタイプよりも、見るからに男らしいタイプが好み。
 俺は館林の好みからすると細すぎるらしい。そりゃガチムチが好きならね。俺はお世辞にも、ガタイが良いとは言えない体格だ。
 だから同室者として当たり障りのない関係を築けるだろう。トールちゃんはそう予測していたのだと、観念したように言った。


「慣れてない人が好きってゆーのも、此処じゃ慣れてるのは、ほとんどがお花ちゃんだからなのね」


 お花ちゃん──女性的というか、一見性別の判らないタイプは、学園で過ごす内に自然と“受身”である立場に慣れた人たちだと言えた。恐ろしい。全員が当て嵌まる訳ではないけれど、彼らは容姿自慢の人でもある。

 けど館林は可愛いタイプは好きじゃない。だから自分から誘ってくるような、物慣れたタイプへの断りが「興味ない」となる。

 それだけなら別に、俺の今後に関わってこない。
 だから今まで隣人コンビは、俺が必要以上に警戒しないように伏せていたのだ。

 身長はあるけど細身なトールちゃんが館林の好みから外れ、友達付き合いしているように、俺も普通に交流を持てると考えたんだろう。



 だとしたら。



 ヤンキーで喧嘩上等、それはそのまま館林の一面なんだろうけど、やっぱり、普段から目が合っただけで人を殴ったりするタイプではないらしい。ふむ。

 新しく得た館林情報に、ちょっとだけ口角が上がった。


「勘違いでも何でも、あっちがコタをそーゆー目で見てる限り、油断出来ないかんね。コタが殴られたりしたら、オレ、マジギレするかんね!」

「ああ、うん。大丈夫とは思うんだけど、そこは念押ししときたいよなぁ」


 殴られるのも、勘違いで襲われるのも、さすがに厭だ。聞いてくれない可能性が高いけど、そこのところは是非もう一度訂正しておきたかった。



 ……トールちゃんはすぐに非難の声を上げたけど。そこは譲りません。


「でも、そんだけ怖いって言われてるのに、館林モテるんだね。てゆか、何で横暴に振る舞うの? ちょっと愛想良くすれば学校でハーレム作れるでしょうに」


 加瀬みたいに本気で苦手としている人も多そうだけど、お断りの常套句があるくらい、誘う人もいるってことだ。

 好みの人が居るかは別にして、館林にとってこの学校は、ある意味過ごし易い環境だろうなと思う。
 本人が生粋のゲイであるなら、それ何てパラダイス。





 ……ん?

 でも本命以外に好かれても困るってタイプなら、怖がられるくらいで丁度いいのか?



 

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あきゅろす。
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