これ以上は、(3Z)
銀魂高校文化祭。来場者がわいわい楽しんでいる中、もてなす生徒側はもうしっちゃかめっちゃかで取り組んでいる。入念に準備したつもりが当日計画通りにいかない、なんてことはよくあることだ。
実はそれは舞台の上でも同じ。そのアクシデントをいかに揉み消し利用するか、そのスキルが問われるのは役者とそれを支えている裏方である。
「姫ェー」
「来るナ!来たら私はこの剣で死ぬ!」
死ぬってそれ剣じゃなくてキュウリなんだけど。さっきのシーンで使ったキュウリなんだけど。死ねないだろ、そんなモンぶっ刺して死んでる奴テレビでも見たことねーよ。こいつ緊張してパニクッてるな?面白いけどこのままアホなコントショー披露されたら俺もアホ扱いされる、そんなのは御免だ。
俺は舞台袖にいる桂に目配せした。その後姐さんにショウメイと口パクで伝えた。桂は(ジャンケンで負けて)黒子だから舞台上での道具の管理をしているのだ。
「姫、さぁそれを私にお渡しください」
(ジャンケンで勝って)姫役のチャイナに手を差し出す(なぜかジャンケンで勝って)騎士役の俺。さぁここで暗転してキュウリを剣に入れ替えるんだ。
そして暗転。よし、後は桂。
黒子の桂がやってきてチャイナの手からキュウリを取り代わりに短剣を渡した。そうそう、そんで俺がコレを…
また明かりが点いて舞台が観客に露になった。
ってキュウリじゃねーかコレェェェ!!姫ほんとに騎士にキュウリ渡したのかよ!意味わかんねーよ。繋がんないじゃん、どんなストーリーだこの劇。俺の恥も露になったじゃねーか。
オイ姫その剣でどうする気だよ。このキュウリ切る気か?何の芸だよ。
「でもやっぱり私は生きていていい存在じゃないのヨ」
あぁもう知らねー。どうにでもなれ。
「貴方が死ぬと言うのなら私もお供させて頂きます」
「サディオストっ」
「チャイニア姫ェー」
二人はお互いをその手の内の剣(とキュウリ)で貫く。しかし共に死のうと誓い合った二人を運命は悪戯に引き裂いてしまう。確かに刺せたのは騎士の方だけだったのだ。姫はぐったりしており軽傷で済んだ騎士は彼女へ駆け寄ると膝を着いて抱き抱えた。
「姫っ(てめぇよくキュウリなんかで虫の息になれたなァ)」
「サディ…オスト(仕方ねーだロ、台本は無視できないアル)」
二人は見つめ合い、禁じられた愛の間で最期の言葉を交わす。
「どうか最期に愛の印しを…」
騎士は黙って姫の唇に己の其れを持っていく…という演技。
「…(ゔ〜)」
「…(目ェ瞑れ)」
更に近づくと長いまつ毛とチークで色付いた頬が目の前に。加えてチャイナの息遣い。あれ?この後どうするんだっけ。練習やリハじゃこのシーンはここまでしかやってないしな…。今は本番だ、うん。よしじゃあ本番いきまー…
ちゅ
「沖田さん!ほんとに神楽ちゃんにキ、キスしたんですか!?」
「そう見えたのかィ?客席からは」
実はあの時先にチャイナが俺の顔を掴んで引き寄せすぐに手で口をガードした。だから俺の口が触れたのはチャイナの手のひらで、チューなんかしていない。
「違うんですか?ビックリしたァ。それまで変な劇に爆笑してたみんなが呆気にとられてましたよ〜」
それァ大成功の舞台だねィ。なんか悔しいけど。
「よォ姫さん。劇の余韻にでも浸ってんのかィ?」
チャイナは日陰でトウモロコシを頬張っていた。すでに着替えているが髪は下ろしたまま。
「本番にアクシデントはつきものヨ。お前しっかりフォローするアル。この私の計らいで劇は大成功だったんだからナ。なんか奢れヨ」
「酢昆布でいいだろ」
「もっと高価な物がいいネ」
「てめーの口には合わねーよ」
「今口とかそういう単語聞きたくないんだヨ」
意識し過ぎ。ま、いいけど。
「お茶漬けサラサラとキュウリの浅漬けなんてどうでィ」
「…プラス酢昆布で手を打ってやるネ」
ブスッとしたその顔はなかなか。ワガママ姫っぽくてな。
「白ご飯は自腹でだぜィ」
ハァ!?と立ち上がったお前がいる舞台を見ている客は俺だけ。
文化祭ネタ。
長い。
でもこの二人が姫と騎士って絶対ないよね。
絶対ヅラあたりが騎士やりたいとか言い出すよね。
役者候補は銀八が指名したという設定でお願いします。
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