万事屋
万事屋

『日常』


「この変態女ァァァァァ!いい加減にしろ!」

「何よ!いつもそうやって私を蔑むんだから!いいわ、もっと蔑みなさい!どうせなら縛ってもいいんだから!さあ!早く縛りなさいよォォ!」

あまりにも日常とかけ離れたとてもシュールな怒鳴り声で私は朝を迎えざる終えなくなった。
もっと爽やかに目覚めたかったよ、ホント。

「ちょっと!朝っぱらから何、気持ち悪いことギャーギャー言ってんのよ!」

バンと銀さんの寝床の襖を開けて負けず劣らず怒鳴ったもんはいいんだけど、見てはいけないものを見てしまったパンドラの箱的なもんが待ち受けていた。

「ちょ、丁度良かったぜ、このM女どうにかしてくれ」

「あん、銀さんたら。見られた方が興奮するからこんな女呼んだんでしょ?そうなんでしょ?」

「いや、俺はどっちかって言うと見られるか見られないか、あのドキドキ感が燃え…て、違うから!誤解だからね!?これ!」

そして数秒間フリーズした後、

「ご、ごゆっくり!」

再び勢いよく閉めた。
うん。私は何も見てない、見てないったら見てない。銀さんが鞭的なもん持ってたとか、さっちゃんが半裸になってたとかそんなん見てないから。断じて!

銀さんの言い訳染みた雄叫びを聞きつつ、自分だけでもいつもの日常に戻ろうとしたけれど、なんとまあこの後が大変だった。
出勤して来た新八君がいつもどおり、起こすべくして未知の世界の入口を開けようとするのを必死に止め、起きてきた神楽ちゃんの好奇心を必死に背かせようとし、あれ?何かどっかでこんな光景見たような的なデジャヴを感じつつ、だけれどやっぱり待っていたのは最悪の結末で、多感なお年頃の少年と純真無垢な少女に知らなくてもいい大人の情事を見せてしまっていた。

















「だから、誤解だって!この女が勝手に…」

「はい銀さん、あーん」

「痛っ臭っ!そこ目!目だから!てゆうかクサっ!誰だこいつに納豆出したの!」

とりあえず、さっちゃんも朝食に招き入れ、私を含め三人が三人軽蔑の目で銀さんを睨んでいるもんだから、この調子でずっと弁解を続けていた。

「銀さんも男だから仕方ないけど、神楽ちゃんもいることだし、しっかりその辺は考えてよね」

「そうですよ、そういうのは二人で楽しむべきであって僕達に見せるもんじゃないです」

「メガネの言う通りネ。私も銀ちゃんの汚いものなんか見たくないアル」

「だーらっ!違うっつってんだろ!」

どうなんだか。
さっちゃんは本当に幸せそうに朝食を甲斐甲斐しく銀さんの口へと運んでいる。銀さんも銀さんで特に恥じらいも見せずそれに応じていた。
誰がどう見ようと恋人同士にしか見えない。この何処が違うというのだろうか。

「隠さなくてもいいって。ただTPOはわきまえてって言ってるの」

「俺じゃなくてこいつに言え!銀さんはちゃんとお前らのことを思ってエロ本は極力買わねぇし」

「買わないから溜まってさっちゃんで発散してるアルね」

「そうなんですか?それじゃあ銀さんは、たださっちゃんさんを性欲処理人形と見てるんですね。侍の風上にもおけねぇな、最低だ」

「違ァァァァァうっ!!!お前ら俺の話聞いてた!?耳垢溜まってんじゃねぇの!?そんなもん今すぐ掃除しろ!そして現実を見ろ!てゆうか、何で俺の目見てくんないの!?そっちには誰もいません!!戻って来い!みんなの銀さんはここだよォォォ!!!」

「あら、銀さん。耳垢が溜まってるわよ。もお、仕方ないわね私が処理してあ・げ・る。もちろん下のカスも!」

「てめぇは地の果てにでも行けェェェ!!!」

















そんなこんなで、和室でさっちゃんが銀さんに耳掃除をし始める頃に私達三人は、それを素知らぬ顔をして自分達の日常を取り戻すことにした。
生憎、今日も仕事は無し。思い思いに過ごして、日が落ちるのを待つしかなかった私達はいつしか誰が言い出すこともなく雑談を始めていた。
新八君がお茶を一口飲み終えると微笑み二人を眺めながら言う。

「銀さんもまんざらじゃないみたいですね」

私もその視線に誘われ二人見てみたけれど、確かに頭をさっちゃんの膝に預けて、大人しくしている銀さんの様子がそれを物語っていた。

「そうだね」

背中向けてるもんだから、雰囲気でしかわかんないんだけど、本当に……あ、あれ?
その時ちくりと胸が苦しくなったような気がした。
なんなのだろうか、この感情は。
苦しさと気持ち悪い疑問に駆られ、どうしていいのかもどうしたいのかも分からず、眉をただ寄せていた。
それに気付いたのか新八君が、

「どうしたんですか?」

心配そうな顔をして訊いてきたけれど、自分でもどういうことになっているかも検討がつかない。

「あ、いや、うん、なんでもないよ?」

だからどうしてもはぶらかせるしかなかった。そうしていると視線の端に神楽ちゃんが入ってきた。
寝転がっている定春の上に寝転がり、銀さんがいる方向を口を尖らせどうしてか一心に睨んでいるように見える。

「神楽ちゃんはどうしたの?」

私がそう声を掛けるとみるからにフカフカそうな定春の体に顔を埋めた。
近寄って頭を撫でても反応がない。

「お腹でも痛いのかな?」

新八君が首を傾げて言っても、二、三度首を振る。
私が「お腹空いた、とか?」と訊いても同じ答えしか返ってこなかった。
二人どうしたものかと顔を見合わせていると、神楽ちゃんはぽつりぽつりと呟いていった。

「なんか嫌アル、わかんないけど、なんか嫌アル」

何が?

「……銀ちゃんが嫌、さっちゃんも嫌ネ、」

どうして?

「わかんないアル……ねぇ、私の中にある黒いモノ誰か取ってヨ……」

何故だろう、どうしてだろう。この的を得ない神楽ちゃんのはっきりしない感情がなんとなくわかってしまう。
私はわかるんだけどやっぱり説明のしようがなく、上手い言葉も出なくて何も言えなくなってしまい、神楽ちゃんの頭を撫でることしか出来なかった。
すると、くすりと含み笑いをする新八の声が聞こえた。

「何がおかしいネ」

相変わらず口を尖らせてるものの、やっと顔を上げた神楽ちゃんが新八君をギリッと睨み上げる。

「あ、ごめんごめん。違うんだ、ただ僕と同じだなって思って」

まじでか。
三人共同じ変な感情に囚われていたなんておかしな話だ。

「僕も何だかわからないけど、嫌だと思ってたんだよね」

そんな素振り全く見せてなかったのは、無理矢理平然を装っていたのだろう。だけれど今はその必要もなくなったのか、悲しそうな辛そうな表情を満面に浮かべていた。

「もちろん二人が仲良いのは嬉しいけど、さ」

あははと空笑ってもやっぱり表情は変わらない。
そして、次に新八君が続けた言葉でやっとこのモヤモヤの正体が理解出来た。

「多分、一種のヤキモチだよ、これ」

ああなんだ。そういうことか。そう言えば銀さんを誰かが独占するってこと今までなかったもんな。いつも四人一緒にいて、それが当たり前の日常だったのに、心にぽっかり穴が開いてしまったみたいに寂しかったのだろう。そう、いつしか私達にとって坂田銀時という存在は計り知れないものとなってたんだ。
いいなあちくしょう、銀さんモテモテじゃん。私もいつかみんなのそんな存在になれたら、どんなに嬉しいのだろうか。幸せ者だな、本当に銀さんは。
違った意味のヤキモチが出てきそうになったけれど、それはまた別の話。
とにかくなんて自分は子ども染みているのだろうとおかしくなって、ついつい笑ってしまった。
すると神楽ちゃんも新八君もそれにつられたのかゆっくりと顔が緩みだし、次第に笑い声も零していく。

ふと、和室の方に目をやると銀さん一人だけがこちらに背を向けて寝転がっていた。

「銀ちゃん、さっちゃんは?帰ったアルか?」

神楽ちゃんは定春から身を乗り出し、返答を待望む。もちろん私も新八君だって。そうして銀さんは答えた。おならで。
もちろんすかさず、新八君の突っ込みが入る。

「ちょっと、んな臭いもんじゃなくてちゃんと返事してださいよ」

銀さんはケツをボリボリと掻きながら、ふてぶてしくどこかさっきの神楽ちゃんを思わせる声のトーンで言葉を紡いでいった。

「あいつなら殺し屋の仕事がどうのって帰った。まあ、どうせお前ら俺の言うことなんて聞いてねぇだろうけど?俺はこれからさっちゃんと楽しい家族計画立てるから、てめぇらはてめぇらで三人と一匹で楽しくやってくれ。あーあ、うるせぇ奴相手しねぇでせーせーすらぁ」

ふんと鼻を鳴らす様子はどこか強がっているように見え、私達三人は忍び笑いをするしかなかった。
どうりで随分と大人しくさっちゃんに耳掃除させているなと思っていたけれど。
なんだ、もしかしてあれからずっと銀さんも?
もうそれがわかったと同時に嬉しいと思えば、私達は止まらない。ニヤリと三人顔を見合わせ、それが合図かのように一斉に銀さんへと駆け出した。
そして、思いっきり飛び付き、

「のわァ!?なんだてめぇら!!コノヤロー離れろ!!暑苦しいわ!!」

神楽ちゃんは首に新八君は足に私は腰に思いっきり抱き付いた。
私達は銀さんが憎まれ口を叩いていても無邪気に笑って、

「銀ちゃんの声がちゃんと届くように私に耳掃除して欲しいアル」

「ずっるーい!私も私も!」

「僕にもしてください!」

観念したのか呆れて頭をボリボリと掻きつつも、銀さんはほんのりだけれど笑顔を浮かべた。

「ったく、わーったよやればいいんだろ。どこに居ても俺の声が聞こえるぐれぇピッカピカにしてやるよ」

それがまた嬉しくって幸せいっぱいで、私達は夜になってもずっと銀さんと片時も離れようとはしなかった。



ありふれた日常ってのもいいけれど、なんだ、こんな日も悪くない。




「だから、風呂は新八としか無理だっつってんだろ!いい加減にしろてめーら!」

「じゃあ、今日は四人でカワの字で寝るアル!私は口の部分ネ」

「はい!私は横の棒!」

「それじゃあ僕は縦の棒で!」

「ってことは俺は三水偏だな、ってそっちの河かよ!!!難しいわ!!」




END
***********
銀さん一人スプラッタ劇場\(^o^)/

夢ヒロインが万事屋にいても、銀さんと恋仲にはならない気がする。家族的な関係が続くんだと勝手に妄想中。
ホントはここにお妙さん乱入させて、さっちゃんといちゃこらしてる銀さんにヤキモチやく的な、銀妙フラグたてようと思ったんだけど、悶えすぎて管理人死亡\(^p^)/

てゆうかすみません、またやっちまった上にこの駄文orz
本当にすみません。


朱羽


あきゅろす。
無料HPエムペ!