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少年小説
和馬という少年
彼の名前は古谷 和馬(ふるや かずま)

俺の甥っ子。でも血の繋がりはない。

兄さんの前妻の和江さんの息子。子持ちだったけど、兄さんが数江さんに惚れて周りの反対を押しきって結婚した。
和江さんは凄く苦労してきた人みたいだけど、決して愚痴は口にせず笑顔を絶やさない本当に綺麗な人だった。

あの時の兄さんは本当に幸せそうだった。血の繋がりなんて関係がないくらいに和馬を可愛がり、日曜日は車を出しては色んな所に連れていった。



でも、その幸せは永くは続かなかったんだ…



結婚して2年目に入った時和江さんが倒れた。

末期の癌だった…
我慢しすぎる性格と若さが災いしたのだろう…
身体中に転移してもって半年と医者に言われた。

ホスピスに入った和江さんの所に仕事終わりには和馬を連れて兄は毎日通った。俺も何回か行ったけど、和江さんは会うたびに笑顔だけど少しずつやつれていった。


そういえばその時に和江さんに言われたことがあった…

「ねぇ、真司君(あ、これ俺の名前ね)。…私はもうすぐ居なくなるけど…その時は…和馬をよろしくお願いね…?」

なんで俺に言うのか分からずに聞き返すと和江さんは曖昧に笑って…

「…なんとなく…でも真司君にお願いしとかなくちゃいけない気がしたの…」

と言った。




入院して半年。医者の宣言どおり、和江さんは桜の咲く季節にこの世を旅立った。



それから兄さんが変わった。

仕事以外に目を向けなくなり、和馬を相手にしなくなった。

それではあまりに和馬が可哀想だと周りがいくつか見合いを進めれば、その一つをあっさり承諾し、再婚。

端から見ればなんの問題もない家族のはずなのに俺から見れば歪んだ、いびつな家族が形成されていっていた。


再婚した相手の冴子さんは悪い人ではないが、気が短くてヒステリーな所がある。

数馬は和江さんとの今までの生活もあってか、すごく遠慮深くて主張することが少ない。

冴子さんはそこにイライラして和馬を怒鳴り散らしていることもあった。(俺がいるときですら…だから居ないときはなおさらだろう…)

それが和馬をさらに萎縮させているようだった。
それが可哀想でたまらなかった。


だから暇な時はよく和馬の所を訪ねたし、休日がくれば預かることもあった。


和馬は、とにかく自己主張はしないが、ずっと見てると実は何がしたいか見えてくる。

公園に散歩に行けば、キャッチボールしている親子をじっとみていた。

「…やりたい?」

って聞くと首を横に振る。

だけど次の週にキャッチボールの道具を準備して「やろう」というと目を輝かせる。

万事がそんな具合だった。


キャッチボールの帰り道。手を繋ぎながら帰る。夕陽を背に受け伸びる二つの影。

「…真…兄ちゃ…」

和馬が消え入りそうな声で話しかけてきた。

「ん?…どうした?和馬」

和馬の方を向くと俺の方を見ながら、下がっている眉毛をさらに下げて柔らかに笑い、

「…ありがと…」

とお礼を言ってきた。
俺はにこりと笑い返し

「どういたしまして…」

と答えた。


カラスの鳴く声が聞こえる帰り道、繋いだ手から伝わる和馬の体温。

ふと、ホスピスでの和江さんの言葉を思い出す…


和江さん…あなたはこうなることを気付いてたんですか…?




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あきゅろす。
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