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少年小説
新生野球部!
「…奇跡だ…」

薫がワナワナ震えながら俺の方を向く。

「あの部活動紹介で新入部員が3人もくるなんて奇跡じゃない!…」

…いちいち掘り返すなよその事件を…

とはいえ、薫も心底嬉しそうだ。そりゃそうだよな…これで廃部の危機を免れたわけだから…

俺もいつにやけてしまうか心配しつつ、キャプテンとしてキリッとしなくてはと頑張っている。

「…プフッ!」



「あーっはっはっはっ!」

突然笑い出したのは新入部員の一人。確か…月嶋 大地(つきしま だいち)だっけか?

ツンツン頭で、声がやたらデカイ。表情も豊かなチームのムードメーカーになれそうな奴。…突然笑い出したりと空気は読めなさそうだけどな…

小学校時代は子供野球チームに入っていて、親の転勤で中学からこの地区に来たらしい。


「…大地!やめろよ…」

眉間に皺寄せて肘で月嶋をつついているのも新入部員の…陽川 剛(よしかわ ごう)。

短髪で三白眼。大変理智的な表情を見せる常識がしっかりしてそうな奴。小学校時代はリトルリーグ所属してたらしいし、まぁその辺の上下関係はしっかりしてそうだよな…



さて、何を突然笑い出したのか聞かなくちゃなぁ〜

「…何がおかしい」

凄みをきかせて月嶋を睨む。
昔から目付きが悪いと言われ続けて15年。
普通の顔で「怒ってる」と聞かれる俺が睨めば大抵の奴は黙る。

現に周りはシーンっとした。

「…ぶふっ!」

その沈黙すら月嶋には笑いを引き起こす要因になるらしい。

「…大地!」

陽川が空気を読めと言わんばかりに月嶋の名を呼ぶ。

「…す、スンマセン!わ、わ、笑っちゃいけないとは思ってる…けど…」

月嶋は手で口元を押さえ笑いを堪えようと必死のようだが…何がそんなに可笑しい?

「…い、今の凄んでる先輩と…ぷっ…ぶ、部活動紹介で壮大にえづいてた先輩の…ギャップが……」

「ぐっ」

…やはりそのことなのか…なんとなーく予想はしていたけど…

「プッ」

俺の後ろから吹き出す声が聞こえた。振り向くと薫が笑うのを堪えている。

「か〜お〜る〜?」

「いやぁ〜ごめんごめん、でも一理あるなって」

薫の一言に緊張の糸が切れたのか、月嶋だけに限らず全体から笑いを耐える声が聞こえる…

しょうがない!こうなるのはしょうがない!


わかっているが…恥ずかしい!


母さん…
産まれて15年目初めて凄みが効かない一年になりそうです…

「あ、あ、でも、あれ見たから俺野球部入るの決めたんっスよ!」

「…えっ?」

笑いながら月嶋は驚きの言葉を発する。


…あれを見て…?


「もう野球は小学生でしてたし、中学では別の運動部入ろうかと思ってたんだけど…」

にかっと月嶋は笑って

「部活動紹介が終わったあと覚えてたのってインパクトありすぎた野球部だけだったんっスよ!」

「……」

…これは喜んでいいのか…?

「…良かったじゃない?まさかのゲロで新入部員ゲットだよ」

「…うるせー…」

薫の軽口を怪訝な顔でいなしながら月嶋の方を向く。

「でも、本当にこんな先輩となら楽しく野球できるだろうな!と思ったんっスよ!」

月嶋はニコニコしながら言ってくる。

…なんか照れるな…
良くも悪くも素直なんだなこいつ。生意気だけど憎めないってこういうことか。

「あ〜照れてるんっスか〜」

そして一言多い…と。


「…あの〜…」

そろそろと申し訳なさそうな声が聞こえた。

「あ、福永…どうした?」

月嶋の騒がしさに紛れてたけど最初の新入部員である福永 純太が周りを気にしながら小さい声で話しかけてきた。

「ぼ、僕もあの部活動紹介があったから野球部に決めたんです…」

「えっ?!」

凄まじく変な顔をしたのだろう…福永がビクッと震えた。

「へ〜お兄さん興味あるなぁ〜」

にやついた顔の薫。
…こいつ楽しんでやがるな…

そんな中で周りを気にしながら小さい声で…上目遣いで話しはじめる福永。

「部活動紹介で…あの、その…えっと…」

「壮大にゲロ吐いた時?」

「えっ、あ、はい…」

福永が言いにくいと思ってるのをバッサリ言い放つ薫。
…壮大ってなんだよ…

「その時に薫先輩をはじめ、諸先輩方が一斉にフォローに入ったんです。」

「…えっ…」

あまりの痛みと嘔吐で意識が飛びかけてたけど、確かにそうだった。…と思う。

「誰一人その…嘔吐物に嫌な顔しないでキャプテンが大丈夫かを一番に心配していました。」

「……」

「だから、きっとみんなから信頼されるいいキャプテンが率いるチームならいい野球が出来ると思ったんです…」


…なんかジーンときた…
あの部活動紹介でこんな風に見て、感じてくれる子がいるなんて…

…正直ちょっと恥ずかしいけど…

それは薫を含め同じなようでなんかむず痒いようなビミョーな空気につつまれていた…

「…は、悠斗、練習はじめようか…?」

「…そ、そうだな!」


かくして、廃部の危機を免れた新生野球部がスタートした。




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あきゅろす。
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