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少年小説
勅使河原先輩
 ……なーんてことをやってたら、唐突に後ろから「こぉらぁ!」とでかい体に飛びつかれて「うっひゃぁ!」と叫んで飛び上がってしまった。
「うっひゃぁじゃねぇだろうっひゃぁじゃ! ったく、山田次郎てめぇ、せっかくこの試合でもスーパーヒーローっぷりを見せつけまくった俺様にどーいう態度してんだ、あぁ?」
「て、勅使河原、先輩……」
 俺はようやくそれだけ答える。どーいう態度もこーいう態度もいきなり後ろから飛びつかれたらわけわかんなくなって悲鳴ぐらいしか上げられなくなるっての!
「で、だ。どーよ山田次郎、俺のスーパープレイ見た感想は?」
「……は?」
「は? じゃねぇよ、俺お前にラグビーしてるとこ見せたことなかっただろ? どうよ、惚れ直したか?」
 俺は眉を寄せて、なに言ってんだろこの人、と思いつつ答えた。
「いえ、俺、ドリンク作りの仕事してたので見てませんけど……」
「……は?」
 勅使河原先輩が、珍しくびしっと固まった。
「や、だから、ドリンク作りの仕事してたので見てませんけ」
「はぁぁぁっ!!? んっだそりゃふざけんなよおいこらてめぇ、お前見てると思って張り切りまくった俺の気合どーしてくれんだよっ! 俺六回もトライしたんだぞ、選手の実力均等に割り振った紅白戦で六回トライってどんだけのことかわかってんのか、あぁっ!?」
「すっすすすすいませんっ!」
 俺はコメツキバッタのようにぺこぺこと謝る。んなこと言ったってドリンク作れっつったのあんたじゃんかよー! と叫びたいんだけど、すでにかなりキレキレで俺の方を睨んでくる勅使河原先輩が怖いのでひたすら頭を下げるしかない。
 はぁぁぁ、と深々と息をつきつつ勅使河原先輩は「っとに、そりゃドリンク作れっつったの俺だけどよ……」とか「あれだけ活躍してんの見てねぇとかあるか普通……」とかぶつぶつ嘆いたが、やがて気を取り直したように笑いかけてきた。
「よっし、じゃードリンクは作ったんだな? お前手作りのドリンクの味、どんなか試してみようじゃねぇか」
「え、いやドリンクはもう作ってあったんで俺ただボトルに詰めただけなんすけど」
「そーいうしょーもねぇ揚げ足取りすんじゃねぇ!」
「すっすすすすいませんっ!」
 怒鳴り声に、また俺はコメツキバッタと化した。勅使河原先輩は仏頂面をしていたが、他の選手たちがボトルを受け取っているのをちらりと見てから、にやっと笑って俺の耳に囁いてきた。
「こりゃ、お仕置きするしかねぇなぁ」
「え……」
「部活終わるまでグラウンドの外で待ってろ。部活終わったらお仕置きな。今日はもっかい紅白試合あるからよ、しっかり見てろ。今度見てねぇとか言ったらお仕置き倍な?」
「えぇぇぇえ……!?」
 俺はものすごーく抗議したかったけど、また先輩にキレられたらすっげー怖いし、なんか周りから痛い視線飛んでくるし、で逆らうことができなくて、ものすごくものすごく嫌だったけどうなずかざるをえなかった。
 ……グラウンドの外から見せられた勅使河原先輩の試合は、確かに勅使河原先輩(ラグビーのルールはさっぱりわかんなかったけどわかんないなりに)活躍してて、次々でかい人たちにタックルされるのをかわしてゴールする姿はちょっと……いや、かなり……正直にいえばすっげーってくらいカッコいいって思った、けど。
 だからって人のこと好きなように扱っていいってことにはなんないぞ、うん。と俺は一人で自分に言い聞かせた。



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