[携帯モード] [URL送信]

少年小説
雨と鞭
「ったくよぉ、しょうがねぇなぁ山田次郎は。何度お仕置きしても覚えねーんだから」
「だ、だって……」
「お前もしかして俺にお仕置きされたくてわざとヘマしてんじゃねーの?」
「んっ……!」
 んなわけねーだろ! と叫びたかったが、ふんふん鼻歌歌って機嫌よさそうな勅使河原先輩にキレられたくないので「そーじゃ、ない、です」としか言えない臆病な俺。
「ふーん、どーだかねー」
 勅使河原先輩はニヤニヤしながら、いつものお仕置き場所に俺を連れ込む。うちの学校には体育倉庫がいくつかあるんだけど、そのうちのほとんど人が来ないっていうとこだ(体育会会長だから鍵持ってるんだよこの人。どうしてこんな人に権力与えるんだよホント……)。
 そこの巻かれて椅子ぐらいの高さになってるマットに腰かけて、勅使河原先輩はにやー、と笑って言う。
「おら。ケツ出しな」
「………うう〜………」
 やだ。すっごくやだ。ものすっげーやだ。今すぐダッシュで逃げ出したい。ていうかこの先輩殴ってやりたい。
 けど、勅使河原先輩はでかいし怖いし……それに勅使河原先輩の言う通り、俺に任された書類を一人でできなかったのは確か、だし。
 ううーやだよぅやだよぅすっげーやだよぅ、と泣きたくなりながら、俺はのろのろとベルトを解き、ズボンを下ろした。
「よーし、こっち来い」
「はい……」
 勅使河原先輩はすっげー嬉しそうに言う。なに考えてんだよこの人変態なんじゃねぇの、と悪態をつきたいがでかいし(以下略)なので、俺はのろのろと勅使河原先輩の膝の上に腹を乗せて、尻を高く上げた格好になった。
 へへ、と小さく笑い声を漏らしてから、勅使河原先輩は俺のパンツをずり下ろし、俺の尻を丸出しにして、ぱぁーん! と音がするほど思いきり、俺の尻を掌でぶっ叩いた。
「ひぎっ……!」
 思わず声が漏れる。痛い。すっげー痛い。
 丸出しにされた尻を思いっきり叩かれるんだもん、ただでさえ痛いってのに、勅使河原先輩はラグビー部の主将で校内でも一、二を争うほどの力持ちなんだ。尻がじんじんして体中がびりびりして、もう痛い痛い痛いってそんだけしか考えらんなくなる。
「おー? どーしたどーした山田次郎、まさかこのくらいで泣いてんじゃねーだろーなぁ?」
「泣いてっ……ませんっ!」
「おーよしよしいい根性だ。まだまだ終わりじゃねぇぞっ、ほーれぃ!」
 ばしーんっ!
「ぎゃっ……!」
 びしーんっ!
「あひっ……!」
 ばしっ、びしっ、ばっしーん!
「いたっ! いたっ……痛いっ……!」
 もう頭ん中からはカッコつけようとかそういうの全部吹っ飛んでた。じんじんじんじん悲鳴を上げる尻と、皮膚から腰の奥にまで響く衝撃、体と頭の中にそんだけしかなくなる。
「痛くしてんだから当たり前だろー? ほーらもう一発!」
 ばっしぃん!
「いたーいっ……!」
 先輩のごつごつした固い手。それが何度も何度も、俺の尻を叩く。数えきれないくらい、くり返し。俺の尻が壊れるんじゃないかってくらいの力で。
 びしっ、ばしっ、ばっし、びしっ。何度も痛い痛いと悲鳴を上げ続けて、俺がもはや声を出す気力もなくなってすんすんと鼻を鳴らすしかできなくなってきた頃に、ようやく勅使河原先輩は手を止めた。
「よーし、よく頑張ったじゃねぇか山田次郎」
「ひっ……、うっ……」
「お? どした泣くのか? 中二にもなって、何度もやられてる尻叩きくらいで泣くのか山田次郎?」
「泣きませんっ!」
 我ながらもー泣いてるって言っちまっていいじゃんってくらいすんすん鼻を鳴らしまくってたんだけど、ホントどこまで見栄っ張りなのか、俺はこういう風に聞かれるとこういう風に答えずにはいられない。
 すると勅使河原先輩はいつも通りににかっと嬉しそうに笑って。
「よしよし」
 そう言って俺の体を起こし、頭を撫でてくるのだ。
 さんざん叩かれて熱いくらいじんじんする尻の下には、叩いてない方の手を引いてそっと冷やす。俺の体をその太い腕で抱え、抱きしめ、ぽんぽんと背中を叩いてくる。
 なにしたいんだよこの人って思うけど、勅使河原先輩はいっつも、俺にお仕置きしたあとは、すごく優しくしてくるんだ。
 何度も背中を叩かれ、撫で下ろされ、勅使河原先輩にぎゅってされてると、悔しいけど、ムカつくけど、もうなんか条件反射みたいになっちゃってるのか、俺はだんだん落ち着いてきてしまう。呼吸や心臓の鼓動が緩やかになってくる。そのくせなぜか、普段の羞恥心とかはどこかに吹っ飛んだままだ。
 なので潤んでいた目をごしごしと拭いて、「も、大丈夫です」とぼそぼそと言う。恥ずかしくないわけじゃないけど、それは『こんな風に情けないとこ見せちゃって恥ずかしい』って感じで、まだパンツずり下ろしたまんまなのとかはあんま気になんなくて……なんていうか、一時的に勅使河原先輩がすっげー気を許した相手みたいに思えちゃうんだ。なんでなのかよくわかんないんだけど。
 で、そう言うと勅使河原先輩は、目の前の男っぽい顔をにっかー、と笑ませて。
「そっか。よく頑張ったな、いい子だぞ山田次郎」
 そう言ってぐしゃぐしゃと俺の頭をかき回して、俺をそっと下ろす。俺は後ろを向いて、できるだけ尻に触れないようにズボンとパンツをずり上げる。
「よっし、じゃー頑張ったご褒美にジュースでもおごってやるよ! なにがいい?」
 これは時によってパンになったり飯になったりするけど、俺はいつもすん、と鼻を鳴らして素直に答えてしまう。
「……100%オレンジ」
「よっし、じゃー食堂行くか!」
「……はい」
 そんなこんなで、俺はいっつも勅使河原先輩についておごられに行っちゃうんだ。無理難題押しつけて理不尽なお仕置きしたのは勅使河原先輩なのに。俺の尻丸出しにして、まだじんじんさせるくらい叩いたのは他の誰でもない勅使河原先輩なのに。
 ホント……なんで、こんなことになってんだろう。
 考えるけど、思いつく中でその答えに一番近いのは、やっぱり『俺が勅使河原先輩のあれこれを断れなかったから』ってことなので、あー本当どーして俺っていっつもこーなんだろー、とこっそり俺はため息をつかずにはいられないのだった。

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!