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少年小説
山田次郎
「おい、そこの山田次郎!」
 背後から浴びせかけられたいつものことながらすごく屈辱的な台詞に、俺はぬぐぐっと奥歯を噛み締めたが、それでも(不承不承だけど)振り向いて答えた。
「……なんすか、勅使河原先輩」
「『なんすか、勅使河原先輩』じゃねぇよったくこの山田次郎は!」
 勅使河原先輩はそのでかい体でずかずかと俺に早足で歩み寄ってきて(廊下が重みで揺れた気がした)、びしっと額を弾く。勅使河原先輩にとっては軽いスキンシップなのかもしれないけど、体鍛えてるわけでもない俺にしてみればそのデコピンは一瞬頭がくらりとするくらい強烈だった。
「てめぇ、俺が言っといた体育会の書類の処理大川に手伝ってもらったそうじゃねぇか! まったくてめぇは本当に山田次郎だな!」
「だっ、だって先輩の言ってた書類多すぎて、誰かに手伝ってもらわないと無理そうだったから……っていうか山田次郎山田次郎言うのやめてくださいってば!」
「は? なに言ってんだ、てめぇの名前山田次郎だろうが。親からもらった名前に文句つけるなんざっとにしょうがねぇなぁ山田次郎は」
「そーいう問題じゃなくて!」
「それと先輩に口答えするんじゃねぇ。いーか山田次郎、俺はてめぇに書類処理の練習をさせてやろうと思ってあの仕事任せたんだぜ? それを他人に手伝ってもらっちゃあ本末転倒じゃねぇか」
「う……それは、そう、ですけど」
「なんだぁ? 文句があるのか山田次郎! 言いたいことがあるならはっきり言ってみやがれ山田次郎!」
「………う〜〜〜っ」
 思いっきり上からでかい声で名前を連呼されて、俺の顔がかーっと赤くなる。頭の中が熱くなって、ぐるぐるして、胸がばっくんばっくんいって、言い返してやりたいのに言葉が出てこない。
 そんな俺の様子を見て、勅使河原先輩はいつも通りににやっと面白そうに笑ってきた。
「お? 泣くか、山田次郎? 学校の廊下でわんわん泣くのか中二にもなって山田次郎?」
「泣きませんよっ!!」
「おうし、それならよし。じゃ、先輩の命令を果たせなかった罪でお仕置きだな」
「……はぁっ!?」
「おらこっち来い! 雨上学園体育会伝統のお仕置きをみっちりかましてやっかんな」
「や、ちょ、せんぱ、ちょっとぉ―――っ!!!」


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