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少年小説
一筋の光、迫り来る影
真兄ちゃんのお兄ちゃんが新しいお父さん。

お父さんは本当にお母さんを好きだったんだと思う。

真兄ちゃんと違って少し怖い顔をしてるのに、家でお母さんと話している時は別人のように優しい顔をするんだ。

僕にもとっても優しかった。…でも、どこかで素直にはなれなかった。

単に僕が不器用なだけかもしれないけど…


僕のせいでお母さんが嫌われてほしくなかったから…

苦労していたお母さんがやっと…幸せになれたんだもん…


だから、お母さんの息子として…恥ずかしくないように僕なりに努力したんだ。

勉強も頑張ったし、お父さんの趣味の魚釣りにも一緒に行った。親子でキャッチボールが夢だと笑顔でいうお父さんとキャッチボールもした。

でも、どれもこれもうまくいかなかった…

ただですら…話すのが苦手な僕は…さらに緊張して、話しかけてくるお父さんに上手く相づちも打てなかった…

最初は笑って再度話しかけてくれた父さんも、だんだん苦笑いになり、話しかけて来なくなった。


僕は…このままじゃ本当にお母さんに迷惑をかけると…お父さんに話しかけようと思ってお父さんに近づく。

心臓の音が激しくなって、口が乾いて震えていた。


…でも、結局話しかけることも出来なかった…。

やっぱり…僕は…お母さんに迷惑をかけることしかできないのかな…?



そんな落ち込んでしまっていた僕に…真兄ちゃんは笑ってこう言った。


「ゆっくりでいいんだよ…焦らなくても、そんな気持ちはちゃんといつかは兄さんに伝わるから」

柔らかな笑顔の真兄ちゃん。…なんでそんなことが言い切れるんだろう?…現に今上手くいってないのに…

そんな僕の気持ちがわかったのか、真兄ちゃんは優しく頭を撫でてくれながら、ゆっくりと話始めた。

「和馬が優しくていい子だからだよ」

「……」

優しくていい子なら…こんなことにはなってない…はず。
僕は小さく首を横にふってうつむいた…

真兄ちゃんは頭を撫でながら話を続ける。

「…世の中には色々な人がいるんだ。物怖じせずにはっきりしゃべる人。慎重に言葉を選んでしゃべる人。…相手の事を考え過ぎて上手に話すことが出来ない人…」

撫でる手の動きが止まる。

「…和馬はどうして兄さんと仲良くしたいの?」

なんで…?そんなこと聞くんだろう…?

「お母さんを盗っちゃうやつだから、和馬は嫌ったっていいんだよ?」

嫌って…いい?

「…それでも和馬は、兄さんと仲良くしようとしてるよね?なんで?」

顔を上げて恐る恐る真兄ちゃんの方を見ると、小さく頷き黙って僕の返事を待っている。

…僕は…

「…お…お母さんに…幸せに…なって…欲しい…から…」

僕のせいで苦労してきた…お母さんが…やっと手に入れた幸せ…

僕じゃあげられなかった…幸せを…お父さんなら…あげられる…から…

…だから…


「…うっ…」

…急に涙が…目からどんどん出てきた。

…なんで…?

涙を手で拭う…だけど、ぽろぽろとひっきり無しに涙が溢れてくる。

すると、真兄ちゃんがぐいっと僕の腕を引っ張るとギュッと抱き締めてくれた。

思わず…シャツに顔を擦り付けて涙を拭いちゃった…

暖かくて大きな手が背中をポンポンと叩いて、頭の上から真兄ちゃんの声がふってくる…

「初めての人と話すのはすごく気を使うし、新しい環境になると体も心も慣れるまですごく疲れちゃうもんなんだ…」

柔らかく落ち着いた話し方が…じんわりと体の中に浸透していく気がする…

「今まで他人だった兄さんと暮らすんだよ?疲れるのは当然だし、上手く話せないのも当然なんだよ。」

…当然?

「だけど頑張ったんだよね…?自分のためじゃなくてお母さんの幸せのために…」

泣いてるの…見られたら恥ずかしいから…うつむいたらまま頷く。

「…和馬はやっぱり優しい、いい子だね…。」

真兄ちゃんの抱き締める力がキュッとほんの少し強くなる。

「大丈夫。和馬の気持ちはきっと伝わるよ…俺にはしっかり伝わってるんだから…俺は和馬を応援するよ…」

真兄ちゃんの言葉に…僕の目が壊れたんじゃないかと思うくらいの涙があふれでる…

…でも、それと同じくらい心がかるくなったようにも感じるんだ…


…僕、もう少し頑張ってみる…

だって…真兄ちゃんが応援してくれるんだもの…


そう心に決めたその日…
「ただいま…」

鍵がかかっていない玄関のドアを開けると、家の中は真っ暗で何の物音がしなかった。

おかしいな…いつもならリビングの電気が点いてるはずだし…
お母さんは料理しながらテレビ見るからに…テレビの音もするはずなのに…

リビングに向かう廊下を歩く。…音がないせいか…いつもよりきしんで聞こえる…

「…お母さん…?」

リビングをのぞきこみながら声をかけるけど誰もいないし、返事もない…
鍵かけ忘れて…お買い物かな…?


そんな時に電話が突然鳴り出した。

思わずビクッてしちゃったんだけど、電話に走って受話器を取った。

「…はい、もしもし…」
「古谷さんのお宅ですか?」

電話口から冷静な落ち着いた声が聞こえる。

「…はい」

「じゃあ、君は息子さん?」

「…はい、そう…です…けど…」

「落ち着いて今から言うこと聞いてね、お母様が倒れて、私立中央病院に搬送されたの。」

…え

…お母さん…が…


その後、僕は…どんな対応をしたかは…覚えていない…

ただ…暗がりの部屋がもっと真っ暗になったように…感じた。

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あきゅろす。
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