[携帯モード] [URL送信]

少年小説
自覚
ザー

どしゃぶりの雨の中…

俺は部室の前に立っている。


福永に電話をかけたら留守番電話になっていたし、やはり部室の電気は灯っていた。

福永がいるんだろう…。というかこんな中では福永くらいしか来ないだろうし。



わかっていたことなのに、いざ部室に入ろうかという段階になって躊躇している自分…。


今、薫の言葉や母さんの言葉が頭の中で繰り返しこだましている。


俺は…



深呼吸して、ドアノブに手をかけようとしたその瞬間、閃光に包まれた。

そして、その刹那―

ピシャーン!ゴロゴロゴロゴロ!

けたたましい音が耳をつんざく。

思わず目を瞑って、耳を塞いでしまった…

そろそろと目を開けると周囲は真っ暗になっていた。

雷の影響で、この一帯が停電したのだろうか…

辺りを見渡すと、点いていた街灯が全部消えていた。

ガシャン!

部室のドアの向こう側で何かが落ちる音がこだました。

「福永!」

振り向くと部室の電気が消えている。物音の後に福永の声は聞こえてこない…

嫌な予感がして…さっきまで躊躇していたことなんかを忘れてドアを開けた。


部室に入ると、暗闇の中で福永が踞って、震えていた。

「…福永?…」

名前を呼ぶと、サッとこちらの方を向くが…その顔は青ざめて、恐怖に歪んだ顔だった。


見たことのない福永の顔に…俺は言葉を失った。

「…やめて…」

小さい声で頭を振りながら福永が涙目で懇願する…

「…お願い…!やめて…」

力ない声で…体の震えが激しくなっている。


やめろ…


やめてくれ!



俺は思わず駆け出し、福永の肩を掴む。

「福永!俺だ!」

真っ直ぐに福永の目を見る。


しかし、福永は肩に置いた手を振り払い、後ずさる。

「…ぼ…僕は…野球がしたいだけなのに…!」

「…福永…」

「…なんで…なんで…!」

一人体を抱え込み、すすり泣く福永。

福永は明らかに、パニック状態で俺を誰かと勘違いしているのは明らかだった…

そうだとわかっているのに…

手を振り払われた事にショックを受けている…そして…福永に拒絶されていることが…たまらなく…苦しかった…



あぁ…、やっとわかった…



震える福永に静かに歩みより、福永のとなりに屈み込む。

そして優しく背中をさする…

ビクッとなる福永に…怖がらないように精一杯の優しい声音で語りかける。

「…大丈夫だ…」

そう言いながら涙が溢れそうになる。

「…誰もお前から…野球をとったりしないから…そんなこと…させないから…」


俺は…初めて福永を見た時にはすでに…惹かれてたんだ。…一目惚れだったんだ…

そして…一緒にいる内にどんどん好きになっていった。


だから…仕方ないとわかっていても…レギュラーにしてやりたかった…

喜ばせたかった…
ほんの一瞬でも悲しませたくなかった…


好きなんだ…
福永のことが…



今の福永は…俺達には話していない過去の何かに恐怖している…

自分から野球を取り上げようとしている…誰かに…


…でも…それは未来の俺なのかもしれない…


同じ男の福永を好きなこの気持ちは…普通なら拒絶される気持ちだろう…


そして…拒絶された俺が…逆恨みして福永から野球を取り上げないとは…誰にも言えないだろう。



福永が…好きだ…
野球を愛している福永が…





だから俺はこの気持ちを閉じ込める。



福永から野球を取り上げないために…







[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!