少年小説
好き…?
「レギュラーは陽川と月嶋、ベンチは福永か…」
部室の机に向かいメンバー表を見ながら一人ごちていると、
「…まぁ、そうなるだろうねぇ〜」
といつも通りの間延びしたしゃべり方で薫が後ろから覗きこみながら話しかけてきた。
「…なんだよ、いたのかよ…」
まさか聞かれていたとは思わなかったので、つい不満げな顔でこたえてしまう。
「いいじゃない、恥ずかしいポエム盗み聞かれたんじゃないんだから〜」
「作ってねぇよ!」
つい乗り突っ込みをしてしまった俺を無視して、俺の向かいに椅子を置いて座り、メンバー表に目を移している。
「実力的に考えて…しょうがないんでしょ?」
「あぁ…」
陽川は元リトルリーグにいただけあって、技量・体力共に申し分ない。ポジションもピッチャーから外野までこなせる器用さもある。打撃も確実に塁に出れる足の速さに、培ってきた勝負勘も加わって堅実だ。
月嶋は、体つきが華奢な感じがするわりには力の強さが半端ないパワーバッター。…握力は俺と変わらないしな…。守備は打撃に比べて劣るものの、十分及第点には達している。あと、どんな相手にも物怖じせず、底抜けなプラス思考はチームの士気を上げるの一役かっている。
その二人からすると、福永は明らかに目劣りする。
基本はしっかりしているのだが、戸惑ったような動きが多い。あと、ボールに対する恐怖心のようなものを感じる…
試合に出すには、心もとない…
しかし…
悩んでいる俺に薫はヤレヤレといった感じで声をかける。
「純タンが真面目で、野球に真剣なのはわかるけど、それとレギュラーはまた別の問題でしょ?」
「…わかっている。」
「わかってないから、そんな苦虫噛み締めたような顔してるんでしょ?」
「……」
薫の言うことは正しいし、わかっている。
ただ…なんていうのか、福永の野球への熱意…というか…愛…?は見ていて尋常ではなく感じるのだ…
球拾いしてても幸せそうで…
皆が帰ったあとに一人楽しそうにボールを磨いてたり…
そんな奴をなんとか試合に出してやりたいと思うのは…やっぱり変なのか…?
試合に出すことで福永にとっていい意味で大きな変化をもたらすことになるんじゃないだろうか…とつい期待してしまう…
そんなことを考えていると薫がブフッと盛大に吹き出した。
「…なんだよ…」
「アハハ!そんなに考え込まなくても、俺たちのチームは純タンしか控えいないギリギリチームだよ?」
薫は立ち上がり、俺の頭をポンポンと叩いた。
「誰かが怪我すれば直ぐ様交代なんだから、そんなに気に病まなくても大丈夫でしょ?」
「…そうだよな…」
薫の言う通りだ。確実に交代で次の試合に出ることになる。
ただ…福永の事が気になるんだ…
レギュラーを発表するときに…あの笑顔が曇るんじゃないか…
無いとは分かってるのに、野球への情熱を無くしてしまうんじゃないか…って…
ついつい俯いてしまった俺にヤレヤレという感じのため息が聞こえてくる。
「悠斗は…純タンの事が好きなんだねぇ…」
…は?
何言ってんだ…?
思わず薫の方を向くと、薫はなんとも言いがたい表情をしていた。
そんな顔の薫は初めてで…つい、とまどってしまう…。
「でも…私情は挟んじゃいけないよ?チームのためにも。…純タンのためにも」
そう言って、クスリと笑い薫は部室から出ていった。
俺は、その一連の動作を見ている時から…薫の言葉が頭の中で何度も反芻していた。
俺は…
俺は……
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