少年小説
好きなもの
「和馬〜せっかくだし外で飯食おうか?」
車で俺のアパートに向かう途中、そんな提案をしてみた。
引っ込み思案で内気な和馬も、やはり外食は好きみたいで、キラキラした眼でこっちを見ている。
「何か食べたいものない?」
こういう食べ物になると「なんでもいい」と優柔不断になってしまう俺は、和馬にふってみた。…っても和馬もこういう時主張しなさそうだし、あんまり期待はしてなかったんだけどさ。
「…り…がいい」
「へ?」
よく聞き取れなかったが、和馬が食べたいものを言ったらしい。
「ごめん、和馬。よく聞こえなかったからもう一回言ってもらっていい?」
俺にそう言われた和馬は、少し気まずそうにもう一度言ってくれた。
「…や、焼き鳥が…いい…」
「…焼き鳥…?」
和馬の口から予想外の料理名が出たため、目を見開いて聞き返してしまった。そんな俺をみて、悪いこと言ったのかと眉毛を下げて動揺している和馬。
「あぁ、ごめん和馬!ちょっと驚いただけだから……いや、和馬が焼き鳥好きとか知らなかったから…ついね。」
あわててフォローを入れると、ほっとしたように和馬が続きを話しだす。
「…お母さん…お給料日に…なると連れていってくれた…」
「和江さんが?」
こっくりと頷く和馬。
「お母さん…『和馬と焼き鳥食べてる時が一番幸せ』…って言ってた…。」
和馬が柔らかに笑う。その顔は和江さんにとてもよく似ていた。
「そっか…」
和馬の好物が知れて良かったというのと、和馬がこんな風に自分の事を俺に話してくるたのが素直に嬉しかった。
「よし!そんじゃ、俺のおすすめの焼き鳥屋に連れていってやる!」
和馬に向かって、にっと笑い、店に向かって道を左折した。
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