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少年小説
二人で
「…な、なんだこりゃ…」

朝の部室に行って驚きの声をあげてしまった…

昨日の夜、練習が終わって…その時の部室は…なんていうか…男子が揃った部室は…まぁ…口にするのも若干はばかられるような状態だったわけで…
で、今週は部活勧誘週刊で、色々新入生行事もあって朝練はどの部活も無しとなっていた。

だから、流石にこのままじゃ好ましくないよなぁ…と朝練の時間に来て掃除をしようと思って来たわけだが…


…すでに部室が美しいのだ…
ロッカーは磨かれ、床も綺麗に掃き清められ、散らばっていた荷物もきちんともの毎に段ボールに入れられている…

まさか…部室を間違えたか?!

と慌てて部室を出て、ドアの上の看板を確認する。


『野球部』


…間違いない…

どういうことだ?
妖精は…実在したのか…?


ドアの前で腕を組んで唸っているところに後ろから声をかけられた。

「あれ…キャプテン…どうされたんですか?」

振り向くと、手に水の入って、雑巾のかかったバケツを持った…福永がいた。俺がなんでいるのかと思っているのか首を傾けている。「…福永…お前こそ…どうした?」

「え、あ、はい…掃除を…」

「こんな…朝っぱらから?」

「はい…」

「…一人で?」

「はい…」

月嶋には通用しなかった俺の眼力は福永には通用しているようで…一言ごとに声が小さくなって萎縮していく福永。

思わずため息をついてしまった。それにびくっとなる福永。

「…俺は基本的に目付きが悪い。」

「えっ?」

怖い顔にならないように心がけながら福永に話しかけると、福永はきょとんとした顔をした。

「俺は、目付きは悪いが…真面目に掃除をしてくれているお前を怒ることなんてない。」

「キャプテン…」

「…怖がらせてるんだったら悪いが、多分目付きが悪いのは変わらんから…そこの所理解してくれ。」

少しの間のあと、クスクスと笑う福永。

「…どうした?…」

俺に問われると、笑うのをやめてにっこりという音が聞こえそうな笑顔になり、

「先輩は優しいですね?」

と言った。


…や…優しいのか…?

変に勘違いさせるのも悪いかと思っただけだけどな…

「…ほら、バケツよこせよ。」
福永の手からバケツを取り上げる。

「え?」

「…で、どこ拭きゃいいんだ?」

福永は俺をぽけーとした顔で見ていたが、急にハッとした顔になる。

「だ、駄目ですよ!キャプテン!」

「…何がだ?」

わたわたしている福永。…何をそんなに慌てている…?

「掃除は一年の仕事です!キャプテンはしなくていいんです!」

「はぁ?」

「キャプテンは他にもしなくちゃいけないことが沢山あるはずです!雑用は一年にまかせとけばいいんです!」

力説する福永に驚く。今時珍しいくらいの体育会的発想だ…。しかも本人本気でそう思ってるって顔してる。

真面目で律儀ないい奴なんだなって思うと自然に頬が緩んだ。

「…キャプテン?」

「昨日までの部室はそれはそれは汚れていた。」

わざと仰々しく言ってみると、福永はきょとんとした。

「さすがに新入部員にこれはひどいだろうなぁ…と思って今日この時間掃除に来たわけだ。」

「…はい」

「自分が散らかしたものは自分で片付ける。これに先輩後輩は関係ない…だろ?」

俺が問うように聞くと、福永は口ごもった。そりゃそうだ。俺の言ってることは間違ってはいない。…ただ、福永は食い下がるだろうな…とも思った。

だから、こう言ったんだ

「だから二人で掃除しよう。」

「…えっ…」

まさかの提案だったのか、目を見開いて俺を見ている。

「自分で散らかしたのは自分で片付けなきゃと思う俺と、後輩だから片付けしなくちゃならないと思うお前。じゃあ、二人でするなら問題ないだろ?」

にやっと笑いながら言うと、福永は顔を赤らめながらふわっと笑ってこう答えた。

「はい!…二人で片付けましょう!」

「んじゃ、さっさと始めるか!」

「…はい!」

二人で部室に入ろうとした時、福永が小さな声で

「…やっぱり、キャプテンは優しいですね…。」

と独り言のように言っているのが聞こえた。


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