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少年小説
彼の名は…
「…はぁ、もうここまでくれば安心だろ…!」

彼は掴んでいた僕の手を放す。かなり名残惜しい気もしたが…ここで手を繋ぎっぱなしっていうのも変だし、しょうがないよね…やっぱり名残惜しいけど…

「…なんだ?どうかしたか?」

彼は彼の手を名残惜しんでいた僕をいぶかしんだみたい。…まぁ確かに変だよね。

「ううん、なんでもない…」

怪しまれないよう笑顔で返す。

…あれ?なんか変な顔してる。なんか変なこと言ったかな?

「…僕なんか変なこと言った?」

「…いや、ついさっきまで怖い目にあいそうだってのに…余裕だなぁ…?」

「…そう…かな?」

どっちかというとさっきより今の方がドキドキしちゃってしょうがないんだけどなぁ…
うぅ、自然に顔がにやけそうになる…

「こんなんなら俺が助けなくても平気だったんじゃねぇか?」

苦笑しながら言う彼。

「そんなことない!」

あ、つい即答しちゃった…
彼もびっくりした顔してる。

「…本当にどうしようか困ってたんだ…でも、助けて貰えたことが嬉しくて…」

君に出逢えたことが嬉しくて…

今までどんなことも冷めた目で見てた自分が…こんなにドキドキしていることが新鮮で…
そんな不思議な気分の自分が…なんか浮かれてて…
いつも冷静でいられるのに…冷静じゃいられない…言葉で上手く表現出来ないけど…

「…助けてくれてありがとう!」

自分でもびっくりなくらい自然に笑顔になってお礼が言えた。…気がする。


「ぷっ!」

彼が耐えきらないように笑い出す。突然のことでキョトンとしてしまった。

「…変な奴。」

え…変…
彼から貼られた最初のレッテルが『変な奴』って…

きっと、ショックですごい顔しちゃってたんだろうな…彼が慌てて訂正しだした。

「…あ、わりぃ!悪い意味とかじゃなくて…!」

すっごいアタフタしてて、そんな姿が不謹慎だけど可愛く見えてします。

「…なんか、その…なんつーかギャップが…可笑しくてさ…」

「ギャップ?」

「あ、あぁ…あの不良と面と向かってた時は落ち着いてた感じがしたのに、俺と話してるときは小学生の低学年みたいに反応が分かりやすくてさ…」

そっか…確かに今まで感情が表情に出たことないからなぁ…

「…なるほど。」

一人納得して相づちを打ってしまった。今度は彼がそんな姿を見てキョトンとしている。

「…やっぱり変な奴」

クスクス笑いながら改めて言う彼に、僕も一緒になって笑ってしまった。


「あ、そうだ。そういや、まだお互いの名前も知らないな。」
ひとしきり笑ったあと彼はそう言った。

「僕は有栖川。有栖川 忠臣だよ。」

「有栖川 忠臣かぁ〜…なんかなげぇな、オミって呼んでいい?」

「う、うん!オミって呼んで!」

僕は力一杯頷きながら、返事した。…えへへ!彼がつけてくれたあだ名って嬉しいな♪オミって呼ばれたことないし…

「俺は、林田 彰宏(あきひろ)っていうんだ。よろしくな!」

彼はそう言ってニカッと歯を見せながら爽やかに笑った。





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