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少年小説
決意
和馬が泣きはじめてから一時間はたっただろうか?
今は和馬も落ち着いて泣いてはいないが、抱き締めたままの状態。どうせこれから行くところは俺のアパートだけだし、慌てる必要もない。だから和馬から何か言ってくるまで待とうと思っている。

「…あ、の…真にいちゃ…」


腕の中にいた和馬がもぞもぞしながら呟いた。

あぁ、俺が抱きしめてるせいでうまく動けないのか!
パッと抱きしめていた手を弛めると、和馬の顔が俺の胸元から上を向いて目が合う。

「あ…」

「…?」

途端に茹で蛸のように顔が赤くなっていく和馬。まぁ、こんくらいの年で泣いてるとこ見られた…って改めて思い返せば赤くなる理由もわかる気もする。
そんな和馬の頭をポンポンと叩き、

「じゃあ、俺は準備出来るまでリビングのソファーにいるから、終わったら呼んでね?」

にっこりと笑いながらそう言うと立ち上がった。

「…あ…」

名残惜しそうな顔をして俺に声をかける和馬。俺のズボンの裾を掴んでいる。

「ん?どうした?」

「…すぐ…済むから……」

下を向いてぼそぼそという和馬。下がりがちか眉毛がなおさら下がっている。

やがて意を決したように俺の方を向いて言った。

「…こ、ここで…まってて…」
言ったはいいが、和馬はプルプルしながら俺の様子を伺っている。今の和馬からすると和馬なりの精一杯の主張だと思うと微笑ましく感じてしまう。

「…うん、わかった。じゃあ和馬のベッドに座って待ってる。」

そういうと和馬は安堵の表情を浮かべて、荷造りを再開する。

「足りないもんはまたあとで取りにくればいいから、とりあえずいるやつな。車で来てるから多少多くても平気だからね。」

こちらを向いてこくりと頷く和馬。俺を待たせまいと真剣に荷造りををしている。

そんな和馬を見ながら俺は考えていた。


兄さんと和馬について話さなければいけない…。

この状況には放っておけない…


…たとえ対立することになろうとも…



「…真…にいちゃ……ん?」

ハッとして顔を上げると和馬が心配そうな顔をして俺の方を見ている。リュックを背負い、手には手提げ鞄と紙袋が2つ握られている。

「ごめん、ボーッとしてた。準備は終わった?」

こくんと頷く和馬。その後に、俺の方を見て困った顔をしている。

「?どした?」

おずおずとなかなか口を開かない和馬にベッドからおりて膝を折り目線を合わせる。

「いいよ。話したくなってから話して。」

あまり無理強いするのは良くないとは思うが、少しは時間を取ってでも和馬の口からの返事を聞きたかった。

2分くらいの沈黙のあと、和馬は観念するように話し出す。

「…迷惑…じゃ……ない?」

「迷惑?」

「真にいちゃ…んは、優しい…から。ほ、本当は…忙しい…のに……」

言いたい事は大体わかっていたし、予想通りだった。
頭をを撫でながら、

「俺は、したくないことをしたいって言うほど人間はできてないよ?」

と言った。俺の方を向く和馬。

「…俺の事は気にしないで?…それより、もし俺の所に来ないなら和馬はどうするつもり?」

和馬は目を見開いた後、困ったように下を俯いた。和馬なりにどうするべきか真剣に考えている。

「じ…自分で出来ることはちゃんと…して、…お…父さ…んが、帰ってくるのを…待ってる。」

「…」和江さんとの二人暮らしが長かった和馬は大抵の家事はこなせるから…今言ったことはあながち出来なくはないだろう…。

でも…その一人待っている姿はあまりにいじましく、そして悲しい…

…そして、どんな理由があろうと今の兄さんは…信用できない…

「…それは俺が、嫌だな。」

「…え…?」

ポツリとこぼれた俺の言葉に和馬は反応する。
俺は苦笑しながら答える。

「和馬がこの家で一人で寂しく待ってるってわかってるのに、俺はほっとけないよ。」

両手で和馬の頬を抱く。

「迷惑なんて絶対ないから…変な気を使わないで?ね?」

俺の両手を掴み、しっかりと頷く和馬。

俺は立ち上がり、和馬の荷物を持ち、ドアを開ける。

「さ、行こう?…和馬。」

彼は頷き、俺の左手をしっかりと掴んだ。




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