暮色の黄昏 a snare-01 そう、俺が全部悪いんです。 皆から刺さるような視線をいただくのも、無理矢理殴られたりするのも、俺が悪いんです。 何の変哲もない凡人な癖に、言い寄られることにいい気になって、かっこいい人達と親しくしていた俺が悪いんです。 だから、皆にいじめられるのも、皆が離れていくのも、当然なんです。 このガーゼの下の傷も、湿布の下の痛みも、全部全部自業自得なんです。 ひとりぼっちなのも、自業自得。 寂しいなんて思っちゃいけないんです。 俺のせいで、俺がいるせいで、嫌な気持ちになっている人がたくさんいるのに。 俺が学園から出て行くことを皆が望んでることは知っています。 こんなことを言うのは都合がいいかもしれないけれど、俺は学園を出ていきたくありません。 でも悪いとは思っています。 だから、自業自得だと言い聞かせて、今日もいじめを、暴力を甘んじて受けようと思います。 篠沢暮色 「どうよこれ!」 打ち込んだ画面を葵秘書に見せる。 「まさかネットにあげようなんて思っていませんよね?暮色様」 「だめか…」 「だめです」 「いやでもさ!」 「本日のおやつは、栗大福です」 「いただきまーすッ」 静かに置かれたお皿の上には、二つの可愛い大きさの大福。 あれ、なんか誤魔化された感じがする。 まあ、いっか。 気にしない気にしなーい。 葵秘書にだめだって言われちゃった。 仕方ないので文面を消去する。 「なんかいい方法ないかなー…、もうそろそろだと思うんだけど」 安達にわざと伝えた言葉は、誰かが聞いていたのか、予想通り広まっている。 いや別に本当にやめてもいいんだけどさ。 生徒じゃなくなるだけだから。 学園に居られなくなるってだけだし。 「問題ないでしょう」 葵秘書が、スッとあたたかい緑茶が入った湯呑みが置いてくれる。 たはー! 大福にお茶とか至福の一時ですな! 「暮色様を追い詰めたいだけなら、近いうちに姿を見せるでしょう。本当に出て行かれて困るのはその人でしょうから」 はあ…。 葵秘書の微笑みが廃れた心に染み渡るうう。 なんと癒されるおやつの時間か。 「俺もそう思うんだけど」 読みが違ったらどうしよう。 それもまた楽しいけどね! ガーゼと湿布を貼った顔や腕を晒して過ごし、時折泣き真似をしてみたり、一人寂しそうに黄昏てみたりした。 そろそろでしょう!多分! 今!つけ込むなら今だよー! よっしゃ!いつでもこーい! と、ここ数日思っているんだが、来ない。 それっぽい誰かは近寄ってこない。 俺なんてとうとう出席拒否だよ。 平日で授業だけれど教室に行かなかった。 人目がないのを確認して理事棟に来たわけです。 ネット上には、篠沢教室いないんだけど、ざまあ!、出て行くのも時間の問題、とか色々書かれているんだけどなー…。 「私としては、暮色様が危険な目に合わずに終わればいいと思います」 「そんな優しさが好きです」 おっと、思わず口が動いてしまった。 「お付き合いしましょうか」 おっと、まさかの告白がきましたよ。 「口の周りが粉とあんこまみれな俺でもいいんですか?」 もぐもぐ、ごくん。 ずずずーっとお茶を啜る。 「甘いキスができそうですね」 「ッ、ぐっ、げほっ!」 咽せた。 まさかの返しにお茶を噴くかと思った。 指で優しく口の周りを拭ってくれる、そんな葵秘書が好きですよー。 [*←][→#] [戻る] |