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暮色の黄昏
05
 

───ねえ、聞いた?

───篠沢暮色のことでしょ?

───今朝、また、結城先輩の部屋から出てきたらしいよ

───高等部から入ってきた分際で調子乗りすぎ

───でも、結城先輩の腹違いの弟っていう噂もあるじゃん

───腹違いだかなんだか知らないけど、所詮、奨学金受けて通ってる庶民だよ

───結城先輩には似合わない

───僕たちの方がずっと結城先輩を想っているのに

───逸見先輩も、最近、篠沢のこと見てる

───相模原副会長は、この前、篠沢のこと見ながら、可愛いなんて言ってた

───なんなのアイツ

───邪魔なんだけど

───目障りなんだよ

───不細工のくせに

───庶民のくせに

───吉野くんも水野くんも侍らせて

───転入生も席が近かったからって、一番に声かけてさ

───春風くん、篠沢にべったり

───異常だよ

───篠沢にいいように騙されてるんだ

───食堂のシェフも篠沢を特別扱いしてる

───寮長様の弟くんも騙されてるんだ

───いじめるおもちゃができたって思ってたけど、もういいよ

───アイツ、学園から追い出そう

───邪魔だもん

───いつものんきな顔してウザイよな

───呼び出して殴ってやろう

───人数には勝てっこないよ

───顔がわからなくなるくらい殴って、バリカンで坊主にしちゃおうよ

───全裸にさせて写真撮ろうぜ

───長谷先生も篠沢に騙されてるみたいだから気をつけないと

───テストでカンニングしたように見せれば先生からの信頼もなくなるはず

───奨学金も受けれなくなるんじゃない?

───いいね、それ

───篠沢を学園から追い出そう

───学園から追い出そう

───学園から追い出そう

───アイツを庇う人間が出てこないくらいに痛めつけてやろうよ

───徹底的に

───異議なし

───賛成!








「面白くなってきたなぁ」


愉快愉快と口角があげる生徒が一人。

三年の校舎の屋上で、広がる学園の敷地内を見渡していた。
フェンスの外側の縁に座っている彼の足は、ぶらりと宙に浮いている。
少し重心をずらせば地面に落下してしまうその位置で、棒のついた飴が歯にあたる音が響く。

カラコロと。


「まー、まぜてって言ったのに断られたのは癪だけど」


そこに数人の足音が近付く。


「どう?様子は」
「はい。推測通り、篠沢暮色は一人で行動するようになったようです」
「理事棟への犯行声明はー?」
「外部の人間を使ったようですね」
「…へえー。ホントに一人でやるつもりかー。わかった、もういいよ」


足音が遠ざかり屋上の扉が開閉する。


「さあて、多樹はどうするのかな?邪魔する?阻止する?それとも敵になる?見ているだけなんてできっこねえよなー」


多樹クンは篠沢暮色を気に入っているからさ!


「肇こそ傍観かな。アイツはお優しいから」


誰がどうなろうとも、よっぽどのことがなければ当人たちの邪魔はしないだろう。


「麗ちゃんは不安定だしねー」


ぐらぐら揺れているよ。
選択肢のない自ら決めた一本道を進みながら。

けれど、やはり一番気になるのは。


「子猫と部屋に引きこもっちゃった我らが会長サマはどうしてしまったのか」


口数の少ない奴はこれだから困る。
なぁんにも言わねえんだもんよ。

ああ、でも。


「篠沢暮色が傷付いたら、出てくんのかな?」


にたりと笑い、空を見上げれば、ひとつの三つ編みに結った薄桃色の髪が揺れた。
 

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