ドールを拾って早一週間。


弁慶と名乗った人形は館にいる吸血鬼と、馴染み始めていた。


あくまで見た目だけだが、微笑程度は浮かべるようになっている。


そんな、ささやかな変化がヒノエには嬉しかった。


「ひのえ。」


片言で名前を呼ばれては、背後から腹部へとするりと腕をまわして抱きしめる。


「なんだい?」


「くろうとあつもりは、どこですか?」


「敦盛はあいつの入れにいるよ。お互いに、あんまり外に出られないからね。なかなか会えないんだ。九郎は…」


蜂蜜色の髪を愛でるように撫でながら、続けようとした途端にルームの扉が開いた。


「俺ならここにいる。呼んだのか。」


話題の人物、九郎が長髪を揺らしながら二人の前に歩み進める。


「くろう。けいこは、終わりましたか?」


うねる橙色の髪はしっとりと濡れ、風呂上がりだということを教えてくれる。


拙い紡ぎが、二人の耳朶を子供のように擽り、ヒノエはくすっと笑った。


「ああ、湛快殿と手合わしていい汗を流したぞ。」


「妬けるねぇ。姫君は、オレの心配はしてくれないみたいだね。」


「ごめんなさい。でも…」


途切れてしまった愛らしい声。


どこか躊躇している様子に、ヒノエの心は天秤のように微かに揺れ動く。


だからこそ、続きを聞きたいという欲求には勝てないのかも知れない。


「でも何?」


困惑気味に寄せられ柳眉が、どことなく悩めかしい。


「べんけい?ねぇ、オレに教えてくれるだろ?お前の、その可愛らしい声で聞かせてよ。」


弁慶の耳朶が、淡い桜色に染まる。


「っ…ひのえが、はなして…くれない、からです。」


ようやく紡がれるも、弁慶の声があとで尻すぼみになっていく。それに比例して耳から赤みが広がり頬まで到達した。


見ていて飽きない、可愛らしい反応に、ヒノエは意外だと言わんばかりに目を瞠った。


あきゅろす。
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