四
部屋の前に着くと、音もなく扉が開いてヒノエを受け入れた。
「ヒノエ様、お待ちしておりました。敦盛様とお客人がお待ちです。」
「敦盛、お前が来るの珍しいじゃん。」
幼馴染みを見て開口一番、野次が飛んだ。
「太陽の陽が弱ければ動ける。それより…ヒノエ、この方は一体…」
親友の皮肉に苦笑し僅かに肩を竦めるも、大人しい敦盛が少なからず動揺を示す。
己の真向かいのソファには、見知らぬ人物が座っているのだから。
「野蛮な狼たちから助けたのさ。」
「そう、なのか。」
静かな足取りで人形の前に行き、敦盛に向かってウィンクする。
敦盛は、ちらりと金髪のドールを見た。人の会話が聞こえている筈、なのに身動き一つしていない。
「とにかく、名前を知っておかないとね。」
ヒノエは人形の前に跪き、恭しく白く細い指をそっと手に取り。
「お姫様?よければ、お前の名前を教えてくれるかい?」
下から顔を覗き込んで御名を問いかける。それはそれは鳥肌の立ちそうなくらい、甘く優しい声で。
その声に、暗く淀んだ琥珀色の瞳が微かに揺らいだのを見逃さない。
「…べ、ん、け、い…」
開かれた唇から零れ落ちた、鈴が鳴りそうな声が二人の耳を擽る。
ようやく、昨夜助けた姫の名を知った瞬間、ヒノエは何とも言えない感情に絡め捕られたのを知った。
「べんけい、ね。オレはヒノエ、姫君の正面にいるのが敦盛。」
ドールは紹介を受け、無機質な表情に似合わないきょとんとした眼差しで、ヒノエの燃えるように紅い瞳を見つめた。
「べんけい殿か、よろしく頼む。」
敦盛は座ったままふわりと微笑み、好意を示す。
「もう一人いるけど、会ったらまた教えてやるよ。取り敢えず…しばらく、この館で過ごしてみないかい?」
あまり喋れないのか、突然の誘いに臆することもなく、弁慶は小さく首を縦に振ってみせた。
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