部屋の前に着くと、音もなく扉が開いてヒノエを受け入れた。


「ヒノエ様、お待ちしておりました。敦盛様とお客人がお待ちです。」


「敦盛、お前が来るの珍しいじゃん。」


幼馴染みを見て開口一番、野次が飛んだ。


「太陽の陽が弱ければ動ける。それより…ヒノエ、この方は一体…」


親友の皮肉に苦笑し僅かに肩を竦めるも、大人しい敦盛が少なからず動揺を示す。


己の真向かいのソファには、見知らぬ人物が座っているのだから。


「野蛮な狼たちから助けたのさ。」


「そう、なのか。」


静かな足取りで人形の前に行き、敦盛に向かってウィンクする。


敦盛は、ちらりと金髪のドールを見た。人の会話が聞こえている筈、なのに身動き一つしていない。


「とにかく、名前を知っておかないとね。」


ヒノエは人形の前に跪き、恭しく白く細い指をそっと手に取り。


「お姫様?よければ、お前の名前を教えてくれるかい?」


下から顔を覗き込んで御名を問いかける。それはそれは鳥肌の立ちそうなくらい、甘く優しい声で。


その声に、暗く淀んだ琥珀色の瞳が微かに揺らいだのを見逃さない。


「…べ、ん、け、い…」


開かれた唇から零れ落ちた、鈴が鳴りそうな声が二人の耳を擽る。


ようやく、昨夜助けた姫の名を知った瞬間、ヒノエは何とも言えない感情に絡め捕られたのを知った。


「べんけい、ね。オレはヒノエ、姫君の正面にいるのが敦盛。」


ドールは紹介を受け、無機質な表情に似合わないきょとんとした眼差しで、ヒノエの燃えるように紅い瞳を見つめた。


「べんけい殿か、よろしく頼む。」


敦盛は座ったままふわりと微笑み、好意を示す。


「もう一人いるけど、会ったらまた教えてやるよ。取り敢えず…しばらく、この館で過ごしてみないかい?」


あまり喋れないのか、突然の誘いに臆することもなく、弁慶は小さく首を縦に振ってみせた。





あきゅろす。
無料HPエムペ!