壱
人(ヒト)と人とならざるものが混在する世。
人が生み出した人形や自然界の動物、闇の住人である吸血族との共存。
そしてこの世の中には不思議なことが起こる。
当たり前すぎることから珍事まで…
今宵はどのようなことが起こるのか、誰にも予想が出来ない。
≪第壱夜≫
人工の明かりが消えた街に、夜の帳が下ろされた。
人が眠りに就き、吸血族が活動を始める刻限。
窓を開け放つと、冬の冷たい風が頬を撫ぜていく。
寂しさを思わせる広い室内には、大きなベッドが一つ鎮座しているだけ。
そのベッドの持ち主であるヒノエに関わらず、従兄である橙色の髪を持つ九郎が、気持ちよさそうに眠っている。
シーツの上で波打つ長い髪を指でそっと掬いとり、身を屈めて口付けた。
「…ん、…? ヒノエ…?」
「おはよう、お目覚めかい? 麗しの姫君。」
九郎の瞼が微かに痙攣し、その奥に秘めされた橙色の瞳が覗き。
耳に心地良い低音が耳朶を甘く擽る。
「っ、あぁ。おはよう。…窓など開けて、どうかしたのか?」
「ちょっとね。今夜は面白いことが起きそうな予感がするんだ。」
ヒノエは眩しそうに目を細め、九郎の髪で無邪気に戯れ。
口角を僅かに持ち上げて楽しそうな表情を浮かべた。
そんなヒノエの表情に、九郎はただただ口をぽかんと開けて見つめ。
ふぃっと外へ視線を流すと、紅々とした満月が地上を照らしていた。
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