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異神話物語
夢を奏でる(女神+優)

 女神は笑ってはくれない。
 それはわかっていること。
 何故なら、彼女はあの方に想いを寄せたままなのだから。
 たとえ私が彼女に少なからず好意をもっているとしても、私では彼女を幸せにすることができない。
 マーヴェスがどれだけ彼女に尽くそうとも、彼女の心は手に入らない。

 ――ならば、私は何もできないまま、終わらせることすらできないのだろうか。



金色の竪琴



 女神のいる白亜の神殿。屋根がなく、出入口が一切ないこの小さな建物は、翼を失った彼女には抜け出すことのできない檻。
 彼女に執心するマーヴェスは毎日ここに出向いては、置土産をもってきている。
 私はただそれを遠目にみることしかしなかった。
 彼は私が彼女に会うことを恐らく良くは思わない。
 なるべくなら争い事を避けたいと願うこの身、私は女神すら避けていた。
 しかし……
 不憫な彼女をどうにかしてあげたいとも思う。
 せめて、この閉じられた空間に何かできないだろうか。

(幸せにはできなくても、ひとときの安らぎを与えることができるなら)

 そうだ、と思い当たって、自分の髪の毛を一本抜き、短い呪を唱えた。
『パルトリーレ・アルパ』
 すると小型の金色の竪琴がそこに生み出された。

(私は音楽と優しさを司る神……安らぎの音色を彼女に届けよう)

 ポロン……ポロンと音を確かめたあと、彼女にだけ伝わるよう魔力を音色に込め、弦を振るわせた。
 奏でられる旋律に、精一杯の想いをのせて、私は歌う。

 神殿の中にいるアーセレスの女神は、ふと聞こえてきた旋律におもむろに顔を上げた。
(優しい調べ……メルフェスね……?)
 今までこの神話界で聞いた歌は、マーヴェスから贈られる愛の謳だった。
 だからかはわからないが、メルフェスの奏でる優しい旋律に、初めて少しだけ安堵する心地になる。
(卑怯な人ね……でもありがとう)
 姿の見えない相手からの贈り物は、確かに女神に安らぎを届けた。

(私は、自分では現状を変えられない)
(けれど……心はどうにかできる)
(ひとつの想いは変わらなくても、他の何かを変えることができるなら――)



END



▼あとがき
 メルフェス→アーセレスの女神→アーセレス主神な感じで。
 メルフェスは女神に淡い想いを抱いているけれど、それは執着するようなものじゃない。
 メルフェスはただ、彼女の幸せを願うだけ。

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あきゅろす。
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