異神話物語
残された哀れな残骸 #(女神+α)
はらり、はらり、はらり。
崩れ、再生し、崩れ、再生する。
深海に浸かったような、深い深い眠りから覚まされる感覚。
女神
――ふと意識が浮上する。
おぼろげな意識で重い目蓋を持ち上げると、目を差すような白い光が視界いっぱいに広がった。
碧い碧い、空が見えてくる。
――そ……ら……?
ぼんやりとしていた意識はそこで瞬間的にはっきりと覚醒して、仰向けだった身体を起こした。
あたりを見渡すと、石造りの壁が四方を囲んでいる。所々の見事な彫刻と何かを奉じているようなレリーフから、ここが神殿かもしれないと予測できた。
上を見上げると、四方の壁で四角に切り取られた碧い空。目を差すような白い光。
――我は、嫌だ。
状況がわからず混乱していた頭の中に、はっと、今までの記憶がよみがえってきた。
(そうだ……私は、消滅したはず。どうして……)
彼女――長い銀の髪と藤色の瞳をもつ女神は、アーセレス神話界での、主神を決める勝負に負けたのだ。そして、消滅した。
覚悟した己の滅び。それが何故、再び魂が……身体が再生されているのか。
女神は自分の手を見つめた。やはり、精神体というわけでもない。以前よりは自分の中に力は感じられないものの、変わりはない。
しかし、女神に変わりはないが、今いる場所には違和感があった。
アーセレスにあった神殿はたったひとつ。しかも、このような石造りではなく、特別な金属で造られた宮殿のような造りだ。
あれから時が過ぎただけかもしれないが、肌に感じる空気や雰囲気は異なっているし、わざわざ造りを後退させる意味もないだろう。
――ここは、アーセレス神話界ではない。
ならば信仰世界――人間界……地上なのだろうか。
だがそれでは女神が再生されたことが説明できない。
人間界では神は誕生しない。アーセレスにおいて、神とは神界で誕生し、人間界に干渉する。それが理だ。
再生であっても、人間界でなどありえない。
――ここは、まさか……
「目が覚めたようだな。アーセレスの女神」
突然の声にがばりと後ろを振り向くと、そこに先程まではなかった人影が4つほどあった。
一人は銀髪で鋭い碧の瞳を持つ、真っ白なマントの付いた鎧を纏った壮年の男。
その右隣に金色の長い緩やかに波打つ髪と紅の瞳の美しい男。こちらはゆったりとしたベージュの民族衣装のような服を着ている。
反対側には濃いめの短い金色の髪で碧い瞳、銀髪の男と似通った格好をしていた。
その左隣には、肩までさらさらと流れるような若葉色の髪と瞳をもつ、トキ色の長めのコートを羽織った男がいた。
銀髪の男が一歩前に出る。次に発した声から、さきほどの声がこの男のものだと気付く。
「事情あってお前の身体を再生……いや、転生というのか。させてもらったぞ」
それに訝しげに女神は眉をひそめた。
「……神の転生をやってのけるとは、あなたたちも神なのね。あの人がそれをできるとは思えないから、あなたたちは……異神話の神々ってところかしら」
銀髪の男はつ、と唇の端を持ち上げた。
「そうだ。ここは、アーセレス神話界ではない。我々は“エディルディ神話界”の者だ」
やはり、と女神は思った。立ち上がり、神々と対面する。
「何故異神話の神々が私を転生させたかは知らないけど、どういうつもりなのかは、聞かせてもらえるのよね?」
女神が訊ねると、後ろに控えていた3人が前に出る。
「聞けば、貴女はどうなさるのでしょうね」
金髪紅瞳の男が、憂いを帯びた目で女神を見つめる。
「……どういうことかしら」
女神の目がさらに鋭く細められた。
緑髪の男がすっと歩み出て言う。
「貴女は、“主神”の座につけるほどの力がある」
それに、女神はある予感がよぎった。
――まさか、まさか!
そこで、確信は事実となって、金髪碧瞳の男に告げられた。
「つまり、お前には、“神”を生んでもらう。アーセレスの女神よ、貴女は今から、我々の伴侶だ」
――神を生み出せるのは、“創造神”のみ。
創造神を亡くした世界は、破滅だけ。
▼あとがき
【天悪事】とリンクしている、もうひとつの神話世界です。
女神が何故必要とされたかは、後々語られます。
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