天使と悪魔の事情 dawn.0 砕け散るは、大切な # はらり。はらり。はらり。 羽根の欠片が世界に散っていく。 神同士の戦いの決着がつき、創世の時代は終わる。 戦いは、血を流すこと無く。 互いに武器を取ることもなく。 ただ、一方的に負けを認めただけの、争い。 羽根 「……何を泣くの」 太陽か、あるいは月か。光るように輝く長い銀色の髪の美しい女神がいた。気高い藤色の瞳はやわらかく細められ、金色の光をもつもうひとりの神の頬を愛しそうに撫でている。 崩れいく体を、神に抱き締められながら静かに微笑んだ。 神話の始まり。 それはいつどのときも、世界の創世から始まり、闘いは起こる。 そう、この二人も、その宿命にしたがっただけの話。 一人の神が勝ち、一人の女神が負けた。 そして、負けた方は消えるのみ。 「我は…そなたを失いたくない…」 悲しそうに、悲しそうに、神はただ女神の最期を受けとめるしかなかった。 「寂しい?」 「うむ」 素直に頷く神に、女神はくすりと笑い、自分の光の粒となって崩れていく翼と身体から、新しく生まれてくる命を見つめた。 「見なさい。大丈夫よ。これは、この羽根たちから生まれてくるのは、私たちのこども。あなたに私が唯一託せるものよ」 光から天使が生まれる。 女神の身体が崩れ逝く。 彼らは何も知らず深く深く眠っている。 女神の身体が崩れ逝く。 「……独りは、嫌だ」 神は涙を流しながら、もはや頭と胴しか残っていない女神の身体をぎゅっと抱き締めた。 「“主神”……あなたは独りじゃないわ。あなたが生み出すの。私は、消えてしまうけど、この子たちは残していける」 「我は、我は……っ!」 「…ありがとう。私、楽しかったわよ。ずっとずっと、いたかったけれど、宿命に背くことはできないのね。だから、あなたが気にすることはないわ。 ふふふ…何そんな顔してるの。大丈夫よ、あなたなら」 すべてが崩れるその瞬間、女神は美しく微笑んだ。 ―――さようなら。これからは、もっと楽しく過ごしなさいね。 これは、アーセレス神話の始まりの、ほんの一幕。 このとき、アーセレス神話には一人の主神が誕生し、一人の女神が消えた。 そして、女神が残した羽根からは、多くの天使が生まれた。 やがて永い時を経て、アーセレス神話界では勢力が3つに別れ、物語は紡がれることになる。 [→#] [戻る] |