先憂後楽ブルース 天国か地獄か 「いってぇ………」 目を開ければ目の前に若々しい青葉。 葉と葉の隙間から、太陽の光がさんさんと降り注ぐ。 俺は助かったのか? それともここが天国? それにしては生々しいような。 勇気を出して体を起こしてみた。間違いなく骨が何本も折れているだろうと確信していたが、痛みはあるものの何故か体は自由に動く。 俺の体は植え込みの上に落ちたようだ。 でもそんな事、今俺が五体満足で生きてる理由にはならない。 今だはっきりしない頭では何もまともには考えられず、俺が一番に思った事は“とりあえずマンションに戻って母にこの奇跡体験を話さなければ”だった。 やっとの思いで立ち上がり、入り口に向かおうとするが、 ない。 どこ見てもない。 何回目をこすっても、ない。 マンションの入り口がないのだ。いやそれどころかマンションがない。 落ちてくうちに風に流されマンションから遠く離れてしまったのか? それとも俺は、頭がおかしくなったのか? どちらも信じられない信じたくない。 俺は現実から目を背けるように、しゃがんで頭を抱え込み、目をつぶった。 次に目を開けた時、そこに自分の家があることを信じて。 しかし何度やっても結果は同じ。俺の家は跡形もなく消えていた。 だがよく見ると、マンションだけではない。ありとあらゆるものが消えていた。いや、ここまでくると“消えた”のではなく“違う場所にいる”という方が正しいだろう。 風に流された説が有力になってきた。しかしいくら考えても拉致があかない。 俺はまずは自分がいる場所を把握しようと、周りを観察してみた。 ここは草や木が生い茂った雑木林だ。だが木はやけに低く、一度校外学習で行ったみかん畑のみかんの木に毛がはえた程度の高さしかない。 そうはいっても俺の身長は軽くこえるので、この林の規模はわからなかった。雰囲気で林と言ったがもしかしたら森かもしれない。 しかしここは東京だ。どっちにしろマンションの近くにもどこにも、そんな自然はない。 その事を深く考えるととんでもない事になりそうなので、そこはスルーしてとりあえず自分を落ち着かせてみた。 冷静になってみると、ここがとても暑い事に気がついた。まだ6月にもなっていないのだ。いくら地球温暖化といえど、この真夏のような暑さはないだろう。 もしかしてここは熱帯雨林か? とりあえず何とかしないとこのままでは干からびて死んでしまう。まだ俺が生きてたら、の話だが。 でもここを動くのもなんとなく怖いので、俺は地面に座りこんだ。もしここが天国で、昔見たアニメが正しければ、きっと天使が迎えに来てくれるに違いない。 破裂しそうな心臓をどうにかしようと座禅を組んだその時、上からエンジン音とともに悪態をつく声が聞こえた。 あぁやっぱり。天使にしてはいささか粗雑で荒っぽい口調ではあるが、迎えが来たのだ。 だが顔を上げ、その天使を見た瞬間、俺の中で“ここは天国”説が消えた。 その男は姿はまるで、地獄の番人のようだったからだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |