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先憂後楽ブルース
兄弟は他人の始まり


ハンドルをギュッと握りしめたジーンは、思い切りアクセルを踏み込んだ。ワゴン車はだんだん加速していきタワーに近づいていく。

「ジーン後ろから!」

エクトルの警告にジーンがハンドルを横にきった。すれすれのところで迫り来る炎をよける。

「殺す気か!?」

火炎放射機って、ガソリンに引火したらどうするつもりなんだ。

ジーンは似合わない舌打ちをして、さらに車のスピードをあげた。

「このまま逃げ切る。みんなはクロエを探して!」

俺は捕まってるのもやっとの状態だったが、窓から必死でクロエを探す。しかしバイクに乗っている人の数は結構多く、クロエを探し出すのは至難の業だった。

そうしているうちにもだんだん強くなる攻撃。挙げ句の果てには“アリゲーター”じゃないチームの奴まで攻撃してきた。

「な、なにコレ!? なんか俺達集中的に狙われすぎじゃないか? どんだけ嫌われてんだよ!」

「リーヤ。でるクイは打たれる、デスよ」

俺にゼゼの言った言葉の意味を考えている余裕はなかった。俺の体は左右に振られ、今もし手を放せば大変なことになるに違いない。

だがジーンは車を慎重に減速させていった。おかげで体は安定したが、危険が去ったわけではない。

「ゼゼ!」

ゼゼはジーンの呼びかけに頷き、再び散弾砲をかついだ。

…………もしや。

天井の窓がまた開く。俺の危惧していた通り、ゼゼはそこから散弾砲を担いだまま顔を出し、ろくにねらいを定めないまま、撃った。



二回目のドカーンという音と共に、今度は悲鳴も聞こえる。俺は血の気が引いた。

「おぃぃい! 今の死んじゃったんじゃないか!? 死んだだろ絶対!」

「大丈夫デスってば。アレ見てくだサーイ」

よっこらせ、と身体には似合わないデカい大砲を下ろしたゼゼが、窓の外を指差した。

「うわっ…」

そこにはいくつものパラシュートが飛んでいた。色も形も様々で、あきらかにゼゼが撃ったであろうチームじゃないチームの奴までいる。

「あれは“戦線離脱”っていう棄権行為。だからあの状態になった時点で、攻撃禁止になるんだ」

ジーンが新たなルールをおしえてくれた。ようはヤバくなったら乗り物捨ててパラシュートで逃げればいいんだな。

「よし、今のうちにクロエを探そう」

俺もそうしたかったが、新しいルールのせいでどうしても気になることが。

「なぁ…ジーン、俺達パラシュートつけてな「あ!!」

エクトルの声で邪魔をされる。彼はソナー画面を見ていた。

「見つかった。ここのすぐ下だ」

急いで窓からのぞき込むと、はるか下方に黒光りのバイクに乗ったクロエがいた。すぐ見つけられたのは彼のバイクが悪目立ちしているからではない。

「ジーン! クロエが変な自転車集団に追い回されてる!」

明らかにクロエを意図的に追い回している自転車集団。彼らの自転車には翼と、後ろにはプロペラのようなものがついていて、なんというか、鳥人間コンテストで使われるような弱々しい感じだ。それなのに速さはクロエのバイクとそれほど変わらない。

「あー…マズいな」

逃げ回る弟を見てジーンが頬をぽりぽりかいた。こんな場面にはのん気すぎる気がする。

「あれは、チーム“モスキート”。この前のレジでリーダーをクロエにボコボコにされたから、恨んでるんだよ」

「ふ…復讐?」

だから彼らはあんな楽しそうなのか。ゴーグルをつけているから細かい表情はわからないが、チーム“モスキート”のみなさんは残忍な笑顔を浮かべているようだった。

「大変だ! 早くクロエを助けないと!」

「んー、そうだねー…」

なんだ、そのやる気のない返事は。

「ジーン! 何でそんな危機感がないんだよ! クロエが危ないんだぞ!?」

「だってどうやって助けたらいいのか、わからないんだもん」

はあ!?

「今までだって、こんなピンチあっただろっ!?」

「ないよ。クロエは喧嘩で負けたことないし。…バイクの故障もなかったし」

そう言いながらエクトルを横目で見るジーン。

まさか。

「エクトル! お前クロエのバイクに何かしたりしてないよな?!」

「なっ…、そんなことするわけないだろ! いくら俺が兄ちゃんを嫌いだからって。見くびるなよリーヤ!」

「う……、ごめん」

俺はてっきり、エクトルがクロエに復讐しようとしたのかと思ってしまった。いくらなんでもそんなことしないよな。

つうか今はそんなこと言ってる場合じゃない。俺はジーンに詰め寄った。

「ジーン! ジーンは兄貴だろ! んでもって、イイ人だろ?! ここは愛する弟のために、なんとかしないとダメだろ!!」

俺の必死の訴えに、ジーンは遠い目になった。
何か助けられない理由でもあるのか。

「リーヤ、僕、実はね…」

な、なんだ。

「クロエのこと、あんまり好きじゃな「だあーーー! 駄目! それ以上言うな!」

そんな理由、ぜったい嫌だ!
だってジーンはイイ人なんだ!
俺を居候させてくれたイイ人なんだってば!

あぁ俺の築いてきたジーンのイメージがだんだん…。

「だってあの子、ウチの家にトラブルしか持ってこないし、生意気だし」

「うわぁぁああ、やめてくれ! 人が今、せっかく自己暗示かけてるのに!」

ジーンの“イイ人”というキャッチコピーが無残に崩れだしていった。弟を思う兄の姿はどこに。

「他にも、すぐキレる、敵が多い、常識がない。それに加えて、すっごい生意気」

「な、なんだよそれくらい!『兄貴』って呼ばれてるだけマシだろ!! ウチの弟なんか俺のこと『邪魔』とか、『役立たず』とかしか言わねーぞ! 悲しくて涙でてくるわ。なぁ、エクトルもなんか言ってやれ!」

弟を見捨てようする兄を止めて欲しくて、エクトルに応戦を頼んだ。

だがエクトルは追い回されるクロエを凝視しながら、「落ちろ、落ちろ」と真剣な顔で、うわごとのようにつぶやいていた。



…駄目だコイツら。


俺は覚悟を決めて、こぶしにギュッと力をこめた。

兄、弟が何もしないのなら、

俺が動くしかない。


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あきゅろす。
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