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先憂後楽ブルース
激戦地へようこそ


まるでテーマパークのアトラクション並みの揺れだった。


空中を自由自在に飛び回る未来の車。
それにようやく慣れた頃、おれはやっと気づいた。

「クロエとカマは?」

そう、例の暴力系2人組がいないのだ。もしかして、…置いてきたのだろうか。

「大丈夫。ついてきてるよ」

「え、どこに!?」

おれは慌てて窓から外を見回す。

「エクトル」

ジーンが声をかけると、エクトルがテレビの横にあったオレンジのボタンを押した。とたんにをエクトルの真ん前のテレビが光り始める。

「……なにそれ」

それは、テレビではなかった。その画面は前に船で魚をとる、という体験をさせてもらった時に見た、ソナー(水中音響機器)にそっくりだった。

「ここにいるのが兄ちゃん。で、こっちがカマ」

エクトルが点滅している点を指差した。
その点は強烈な超音波を発しながら、俺達の後を一定間隔を保ち、ついてきている。

「あー、あー。ただいま通信機のテスト中。確認をどうぞ」

エクトルがマイクに向かってそう言うと、スピーカーからノイズが聞こえてきた。

『こちらクロエ。遠方状況確認、特に異常なし』

「了解。カマはどう?」

『異常なし。退屈よ』

スピーカーから流れてきたのは紛れもなくクロエの声だった。カマのダルそうな声も同じように聞こえてくる。

興味津々に操縦席をのぞき込む俺の腕を、ゼゼがくいっと引っ張った。

「リーヤ、こっち来てくだサーイ」

左側の窓の外を指差すゼゼにうながされ、小さくなった町をのぞき込む。

「うわあ、すごい…」

まるでヘリコプターに乗っているみたいな景色に、俺は感嘆してしまった。

「ん? あれカマじゃないか?」

俺たちより少し低い位置で飛行している人がいる。あの赤い髪は見間違えようがない。

「そうデスよー。イルちゃんデス」

ゼゼは嬉しそうに足に防具をつけたカマに手を振る。
カマが乗っているのは車でもバイクでもなかった。

「…キックボード?」

彼女は俺の弟が小さい頃駄々をこねて買ってもらっていた乗り物、キックボードに乗っていた。ただしそのキックボードの大きさは通常の3倍ぐらいある。おまけに羽もないくせに、空中を自由自在に飛んでいた。もしこれが現代で商品化されていたら、「キックボード買って」と泣いてせがんだのは弟ではなく俺だっただろう。


カマは笑顔で手を振るゼゼに気づいたのか、こちらに向かって大きく手を振ってきた。顔につけたゴーグルで表情は見えないが、たぶん笑ってるんだろう。

「リーヤ、見えてきたよ」

ジーンの言葉に前方を見ると、進行方向に小さな塔があった。

「あれは?」

「レッド・タワー」

エクトルがソナーから目を離さないまま、おしえてくれた。

「レッド・タワーって、あの噂の……」

王族の城?


うわぁぁ本格的にレジスタンスっぽくなってきた。まさか今からあそこに殴り込み!?

おれが1人悶えている間に、どんどんレッド・タワーに近づいていく。もう形がはっきりわかるまでになってきた。まわりには飛行機やらなんやらよくわからない乗り物が数機、旋回していた。

タワーのふもとにはまるでタワーを囲むように、みかんの木がところ狭しと植えられている。…間違いない。ここは俺がタイムスリップした場所だ。

「…今って夏なんだよな? 気温的に。何でみかんが一つも実ってないんだ?」

ジーンがしばらく考えてから答えた。

「リーヤ、アレはみかんの木じゃないよ」

「え、そうなの?」

ジーンがおしえてくれた新たな事実にはあまり驚かなかった。俺もそうじゃないかな、と勝手に考えてただけだ。
何だかんだ言ってるうちにレッド・タワーは目前にそびえ立っていた。みかんの木じゃなかった木が真下に見える。

「じゃあこれって一体、何の木? …ずいぶん低いよな」

「あぁそれは、これ以上高くなっちゃったら、レジ中の攻撃が当たっちゃうから。植物も環境に適応してるんだよ」

うんうんと感心したように頷くジーン。結局何の木なのかはよくわからなかった。

どんどん高度が下がってくる。ジーンはレバーを引いてワゴン車をゆっくり木の上に停車させた。

「こんなとこでいいの? 木の上だぞ?」

下からバサバサッという葉と枝のこすれる音がする。完全に森林破壊。

「いーのいーの。ってかむしろ木に乗ってないとダメだから」

「なんで?」

疑問符いっぱいの俺に、ジーンは笑顔で対応した。

「…よし、じゃあ今からリーヤに、簡単なレジスタンスの説明をしよう」

「説明…? ってうおっ!」

彼は真横にあった小さなレバーを引き、急に座席ごとぐるりと180度回転してきたので、かなり驚いた。

「はい、そこに座って」

床ですか。

「質問があったら手をあげるように」

「ううっ、…あんまり聞きたくない」

俺の暗い顔に、大丈夫だよ、と微笑むジーン。
俺は余計に怖くなった。


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あきゅろす。
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