先憂後楽ブルース
冷却コート
「あっつ…!」
クロエに担がれたまま地下道を歩きやっとこさ出てきた地上は、お世辞にも清々しいとは言えなかった。俺はあっという間にむっとくる熱気に包まれ、この時代に来た時のことを思いだす。ジーンの家が涼しくて気温などすっかり忘れていた。
クロエはよっこらせ、と俺を肩から下ろした。
未来の都市というものに興味をそそられ辺りを見回すが、あまり建物がない。なんというか…何もない田舎だ。何百階建てのビルもないし道はアスファルトで覆われてもいない。あるのは砂ぼこりが舞う平地。
普通と違うのは上空に飛行機以外のものもビュンビュン飛んでいることだ。小さくてよくわからないけれど。
「リーヤ!」
笑顔のジーンが小走りでこっちに向かってきた。若干汗をかいているようだが、それさえもさわやかだから不思議だ。
「大丈夫? 暑くない?」
「めっちゃ暑いよ」
日差しがキツい。太陽が倍ぐらいデカいような気がする。
「クロエはよくそんなコート着てられるよな…」
隣で涼しい顔をしているヤンキー。彼のモコモコの黒いコートを見てるだけで体中から汗が吹き出そうだ。
「何でそんなの着てるんだよ」
俺の質問にクロエはニヤッと笑った。
そのまま俺の腕をつかみ、自分の懐に突っ込む。
「ぎゃっ」
何してるんだ、と文句を言おうとした瞬間、クロエのコートの中に潜り込んでいる俺の手が冷水につけたみたいに冷えた。
「す、涼しい」
俺はあまりの快適さにもう一方の手もコートの中に入れた。なんだこれ、なんでこんな涼しいんだ。
「涼しいだろ。なにせ『冷却コート』だからな」
冷却コート? 聞いたことはないがだいたいどんなものかは名前でわかる。
「うわぁ何コレすげー涼しい。いいなあ」
「冷却コートも知らねーのかよ。未開人だな」
うるせえ、しゃーねぇだろ過去から来たんだから。ってかお前だけなんかセコくね?
あまりの涼しさにコートの中から抜け出せないでいる俺のもとに、エクトルがトコトコやってきた。
「兄ちゃん! リーヤも呼ぶって言ってたけどリーヤどこに……って何してんの?!」
俺を見て口をあんぐり開けたエクトル。
「何って…涼んでるんだけど」
そう言ってから、自分の姿に気づいた。
今の俺は両手をクロエのコートの中に入れ、まるでクロエに抱きついているみたいだ。端から見たらかなり異様だろう。
俺は慌てて彼の筋肉質な体から手を離した。一気に熱気が俺の腕にまとわりつく。
「うわっ、出すと暑いや。やっぱ、いいなぁそのコート」
いいだろ、とばかりにクロエはコートで自分の体を包み込む。
「ジーン達は着ないの?」
そんな便利な服をクロエだけ着ているのは、なんだか不自然だ。
「僕達はクロエやカマと違って車だから、必要ないんだ」
そう言って、ジーンは俺を引っ張った。後ろからエクトルもついてくる。
「どこいくの?」
「駐車場」
ジーンはそう言うと俺の手を引きズンズン歩いてく。
30歩も歩かないうちにジーンが立ち止まった。
「あれが僕らの車だよ」
ジーンが指差した方向には、1台のデカいワゴン車。
「あれ?」
もんすごいシャープな車かゴツい戦車を想像していた俺は、なんだか拍子抜けしてしまった。
硬い土の上にドンと停まっているワゴン車にはカマがもたれかかっている。俺達の姿を見つけると彼女は赤い髪を揺らしながらこっちに向かってきた。
「これ、大丈夫なんでしょうね?」
カマが指差したのは自分の足につけてあるプロテクターのようなもの。それはまるで野球のキャッチャーの防具みたいだ。スカートの下につけてるもんだからかなり不自然。
「大丈夫だよ」
答えたのはエクトルだ。やけに自信満々な彼に納得したのかカマはわかったと頷き、カチャカチャと音をだしながらワゴン車を後にした。彼女もまた分厚い上着を着ている。
それにしても、あの防具はなんだろう? 体を守るためなら、足だけじゃなく胸や腕にもつけたらいいのに。
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