先憂後楽ブルース
流されない人になれ
「ははは、流行り!?」
「うん」
「そんな理由で!?」
「ああ」
「レジスタンスの、意味は?!」
「…特にないけど」
「じゃあ圧政に苦しんだり重税にあえいだりしてるってのは…」
「なんだそれ」
なんてことだ。
「リーヤ?」
俺は失意の表情を隠すため頭を抱え込んだ。
もう嫌だ。なんだよそれ。ふざけんじゃねえ。俺の涙返せよ。こんな未来、あってたまるか。
思う言葉はたくさんあれど、口に出すことは出来なかった。
「流行って…ホントにみんなやってんのかよ」
「みんな、ってわけじゃないけど。やってる人はやってる」
「マジで?」
「マジで」
なんか、だんだんこの国の統治者が可哀想になってきた。
あぁ父さん、未来の日本はこんな感じになっちゃってるよ。
「ってかエクトル、お前車の整備しとけよ」
うなだれる俺をまったく気にしないクロエの言葉に、出来るだけ皆の視界に入らないよう膝をかかえて縮こまっていたエクトルがビクッと顔を上げる。
「そんな…」
彼は今にも泣きそうな顔でクロエを見ていた。兄は偉そうに足を組んでいる。クロエの方が低い位置にいるはずなのに、この見下しているような雰囲気は何だろう。
「やっとけ、もちろんバイクも。あとお前も行くんだからな、明日のレジ」
その瞬間エクトルが真っ青になり立ち上がった。その反動で座っていた椅子が音をたてる。彼の灰色の瞳が潤んで揺れていた。
「いいい、いやだ!」
「嫌だじゃねえよ。テメーこの前もその前も休んでんだろーが」
クロエはいやいやと首を振る弟に詰め寄る。兄の威圧感に耐えられないのかエクトルは後ずさった。
「何でそんな意味ないことに、俺を巻き込むんだよぉ〜」
胸ぐらを掴みあげられたエクトルは目線を思いっ切りそらしながら嘆くが、クロエは聞いちゃいない。
「意味ないだぁ? 俺がチームに入れてやったからお前はイジメられずにすんでんだろ!? これ以上の不参加が許されると思ってんのか!」
「それでもいやだぁぁあ」
隣でもみ合う南米系の兄と日本人の弟。俺に友達を庇う余裕はなかった。
「クロエ、暴力はダメデスよー」
「そうだよクロエ。お前はすぐ暴力に頼るんだから。リーヤもびっくりして硬直……ってリーヤ、何で泣いてるの?」
俺はコイツらのこと、全然まるっきり何にもわかっていなかった。
今さら気づいても、もう遅い。
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