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先憂後楽ブルース
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「頼もう!」

とある晴れた日の昼下がり、野生児のような姿の大柄な男がレッドタワーの前に現れた。
突然の訪問者にタワーの警備隊は大慌てだったが、これはまだこれから来る波乱の始まりに過ぎなかった。









「日本には、日本人が少ないのよね」

隣にいたハリエットの言葉にリーヤは思わず顔をしかめた。異世界から来たリーヤにとってはどうしても違和感をぬぐえない表現だ。

ここはタワー内にある闘技場で普段は兵士の訓練所として使われている場所だ。今日は立ち入り禁止となっているこの場所でとある試合を見学するために、リーヤとハリエット、そして少し離れた場所に王子直属の護衛であるジローと秘書官のダーリンがいた。

「今の日本国民は色んな人種が混じってて、純粋な日本人はレアだって話なら前に聞いたけど」

「レアってもんじゃないのよ。現在確認されてる純日本人は両手で数えられる程しかいないんだから」

「えーー、日本人っぽい人なら結構見るけどなぁ。エクトルとか……あそこにいるジローさんも日本人じゃなかったっけ?」

「違うわよ馬鹿。彼の父方の祖父と母方の祖母が純日本人なだけ。だいたいもしそうなら殿下の護衛なんてできるわけないでしょう」

自分の名前を呼ばれた事に気づいたジローがちらちらとこちらを気にする様子を見せる。なんでもないよという意味を込めて笑顔で手を振っておいた。

「純日本人の殆どはこのレッドタワー内にいるのよ。そして生まれたときから政府の監視下に置かれる。日本人という種を守るために安全な生活を保証してくれるってわけ」

それは保護という名の軟禁ではないかという突っ込みはあえて控えることにした。そこを深く掘り下げると本筋から大きくそれてしまうのが見えていたからだ。

「ところがその政府の監禁……じゃなかった。保護下から逃げ出した男がいたのよ。そして6年もの間行方不明だったんだけど、今朝になって見つかったの」

「へぇ、良かったじゃん。どこにいたの?」

「レッドタワーの前よ。自分で現れたの」

「え、何で」

せっかく自由になれたのに自ら戻ってくるとはどういう事なのか。6年も逃亡していたなら外での生活がありそうなものだが。

「記録によるとその日本人、レイ・篁(タカムラ)は元々とても好戦的な性格で、誰とも戦えない生活に嫌気が差して逃げ出したんだって。でも、どうしても闘いたい相手がタワーにいるから、その人と勝負させてくれるなら大人しく監視下に戻るって言ってるらしいわ」

「その相手って、まさか……」

「そう。ダヴィット殿下よ」

「……それでこんなことになってるのか」

ダヴィットが模擬戦をするというので見に来たが、いまいち何のために闘うのかリーヤはわかっていなかった。けれど初めてダヴィットの剣捌きを見られるとあって、応援のためにメガホンまで用意していたのだ。当人が出てこないためハリエットから事情を聞いていたが、なかなかに複雑な理由だ。

「でもダヴィット大丈夫かな。そんな喧嘩好きな男と闘うなんて、もし何かあったら……」

「脳内性悪判別機にもかけたし、殿下に対して殺意はない事はわかってる。それに殿下はお強いし、自らやると仰ったのよ。……内密にだけど」

いくらこの国の王子といえど日本人に傷をつければ問題になる。その逆もまた然りだが、本来なら模擬とはいえ実現できるはずのない相手同士の試合だ。

「まさか真剣使ったりしないよな」

「それはないない。でも竹刀だから、本気出せば怪我くらいはするかも」

「お、俺がとめたらやめてくれるかな?」

「大丈夫、殿下も自信があるから受けてたったんでしょう。6年サバイバルしてたぐらいの純日本人なんかに負けないわ。瞬殺してくれるんじゃない? …お姉ちゃんなんか殿下の勇姿を見るために有給とって来てるんだから」

「マジで?!」

リーヤが思わずダーリンを盗み見ると、彼女は明らかに興奮していて、目をキラキラと輝かせている。その綺麗な横顔に思わず見とれているとハリエットに脇腹をつつかれて慌てて視線を元に戻した。

「あっ、殿下出てきたわよ。ほらほら、カキノーチは今日殿下を応援にきたんでしょう」

「なんか胃が痛くなってきた…」



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