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先憂後楽ブルース
ふざけんじゃねえ!


「今から、明日のレジスタンスの作戦会議を始める」

クロエが自分の両膝を掴みながら、よく通る声でそう言った。

意気込むクロエの横には少し不機嫌なカマが足を組んでソファーに体を沈めている。カマの綺麗な赤い髪を、後ろでゼゼが楽しそうにいじっていた。

クロエの真正面で静かに微笑んでいるジーンとは対照的に、無理やり連れてこられたエクトルは、ぶすっとした顔で俺の横に膝を抱えて座っている。


俺はといえば、レジスタンス集会という大切な集まりに部外者が参加するのもアレなので、少し離れたところでおとなしく椅子に尻をくっつけていた。

「俺達は明日の〈レジスタンス午前の部〉に出る。朝9時、ここに集合だ」

クロエは金の瞳をキラッと光らせる。

「クロエは何を使うの?」

ジーンの質問にクロエがニヤっと笑った。

「俺はテーザー銃だ」

聞きなれぬ武器に1人ビビる俺。『テーザー銃』がどういうものか知らないが、『銃』というからには危険物には違いない。ジーンは「あーあれねー」と普通に受け流していた。

「ったく、昨日やったばっかなのに何で明日も…あたし単位ヤバいんだけど」

真っ赤なマニキュアが塗られた爪を眺めながらカマがぼやく。もしかして彼女はこのレジスタンスにあまり乗り気ではないのだろうか。

「しょうがねぇだろカマ、単位足りねぇのはみんな同じだ。文句言うな」

「こうなった原因は昨日アンタがレジの真っ最中に消えたからでしょ!」

「あれは俺のせいじゃねえ!」

「理由はどうあれ無断で消えたことに、変わりはないわよ」

クロエを責めるカマの頭をそんなコト言わないデーと、ゼゼがギューッと抱きしめた。会議が始まって初めてカマに笑顔が生まれる。

「あーもぅ、とにかく! 昨日の失敗は明日のレジで取り返すしかねえ! いいかお前ら、わかってるだろうが注意しなきゃいけねぇのは他のチームだ。ヤツらの妨害は毎回ヒドくなってきやがる」

気になる言葉が耳に入ったので、俺は横で1人陰気にうなだれているエクトルに声をかけた。

「なぁエクトル、他のチームって何?」

「んぁ?」

「だから、他のチーム!」

「他のチームっていうのは、僕達以外のレジスタンス活動をするチームのことだよ」

俺の声が聞こえたのか、ジーンが答えてくれた。

「他のチームがあるの?」

「もちろん」

へぇ…。
そんなに反対勢力があるなんて、よほど悪い国家がこの時代を牛耳っているとみえる。

「でもさ、だったら何で他のチームが妨害してくるんだ?」

「えっ?」

俺の疑問にジーンが怪訝そうに眉をひそめた。

「何でって…、他のチームは敵だからだ」

答えたのはクロエだった。なぜだかみんな、不思議そうに俺を見ている。

「敵?」

「ああ」

今度は俺が怪訝な顔をする番だった。

「どうして敵なんだよ。他のチームも国家に反抗してるんだろ? いわば同志じゃないか。みんなで力をあわせて戦えばいいのに」

俺の今まで勉強してきた歴史から言えば、一致団結しない抵抗運動は成功しない。個々の能力は限られていて、とても国を支配する暴君には勝てないのだ。

誰も、1人では何もできはしない。

このレジスタンスチームは、そのことにまだ気づいていない。現に見てみろ。今の俺の熱弁にみんな口を開けてポカーンとしている。

「だからここは1つ 、一致団結して国家を…」

「何言ってんだお前」

「…倒すことを考え…って、え? なに?」

今なんか言った?

「別に俺ら、国潰そうとか考えてねぇんだけど」


…はぁ!?


「おぃそれどういうことだよ! 最初から諦めてるんじゃ、何にも変わらねえだろ!」

「いや諦めるもなにも…」

興奮のあまり立ち上がる俺とは対照的に、クロエはだんだん声が小さくなっていく。

なんだよそれ!
ふざけんじゃねえ!

「そんな形だけの反抗意味ねぇよ! 本当に国のやり方を変えたいんだったら覚悟決めろ! 倒す気のないレジスタンスなら、やらないほうがマシだ!」

俺は唖然としたクロエの顔を見て、満足感に浸っていた。
言ってやった。
言ってやったぞ。

「あの…リーヤ?」

満足げな俺に、ジーンが申し訳なさそうに口を挟んだ。

「別に僕達…国に不満なんかないし、ましてや倒す気なんてないんだよ」

あまりのことに、俺は開いた口がふさがらなかった。

「…じゃあ、何でレジスタンスなんかやってんだよ」

「え…って、そりゃあ……ねぇ?」

ジーンが困ったようにクロエを見る。


「趣味だ」


…は!?


「趣味!? 嘘だろ!?」

趣味で国家抵抗運動!? きいたことないぞそんなん!!

「嘘じゃないよ」

相変わらずいい人そうな顔で、ジーンがさらりと言った。

「いや悪趣味すぎるだろ! 何でそんなんやんだよ!!」

「何でって…」


頭がこんがらがっている俺に、ジーンとクロエは口をそろえてとんでもないこと言いやがった。




「「だって流行ってんだもん」」




あ"ぁぁぁあ"あ"?!


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